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と、それは突然彼女の鼻の頭にとまった。
昆虫好きの彼女でもびっくりして思わずはらいのけてしまった。
それは音をたててフローリングの上を転がっていく。
―― しまった、ごめん。
保護色でみあたらなくて、四つん這いになって捜した。
隅にひっくり返った昆虫をみつけた。
すると、カチっと音をさせて、昆虫が跳ねた。
「なんだ、コメツキムシか、ういやつじゃ」
指に捉えたコメツキムシは指先から逃れようとしきりに頭をかちっと音を立ててはじいている。
床にひっくり返しておくと、上手に頭をはじいて、ぴょんと跳ねて、起き上がろうとするのだった。
「病気の私みたい、私もがんばってなおそっと」
また床にひっくり返して置いた。
「がんばれー、一生懸命、可愛い」
「あかん、もう虐待だ、やめとこ」
「懐かしいな、小学生の時初めて捕まえて、これ面白いよって教えてもらったんだ。え、だれに?えっ、男の子だった・・・?」
―― 小学生ぐらいで、女の子は甘いもの好きがジョーシキってかんじと同じで、昆虫嫌いってすりこまれちゃうんだけど、私が昆虫大丈夫なのはその男の子がいたから・・・、だれだっけ?
――もう思い出が曖昧になってきてる・・・、大丈夫か私。後遺症?そんな怖いことイヤだよ。
スマホの写真をまたチェックしながら
「アルバム、私のアルバム、プリントアウトして、今時間あるしー、アルバム、アールバム、アルバーム、」
スマホの写真はそのシーンの解説の歌付きで
リズムに乗った指にめくられていった。
「えっ、これ中学まで家族でいってた山の民宿じゃん」
「服、だっさ、まあ山だから、恰好より安全なんだよな。このときはもう虫かご持ってるな。今も使ってるやつじゃん」
遠い記憶が蘇ってきた。
大きい青空があった。
真っ白い雲がゆったり流れていた。
麦わら帽子が目の前にあった。
網目を通って降る日差しが互いの顔に夏の模様を描いていた。
二人は汗だくになっても、晴れた夏山で平気だった。
※後1・2回続いて完了予定です。
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