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ベッドの中にいてまだ微熱の残る彼女に リビングから家族の笑い声が響いてきた。 ―― 多分いつものお笑い系番組かな。 病気で寝ている自分が嫌になり、ため息がでたが 近くに家族がいてくれるだけでも十分だと自分にいいきかせた。 ―― 高熱、ほんとに、ほんとに、辛かった。 ―― 一人住まいのひとだったらどうしようもなくさみしいんだろうな。家族って・・・、家族って・・・、愛されてるんだ、私。 ―― 私だけじゃなくて同じ病気にかかった人で、まだ熱下がったばっかりな人もいるし。ほんとにもう、みんな流行り病にてんてこ舞い。 ―― 病気だけじゃなくて、環境の変化に対応しようと傷つきながらも努力し続けてる人がいて。 ―― それに身近な人の不幸に苦しんでいる人もいる。 ―― みんなそれぞれなんだ。 胸に重みがあった。 ここ数日前から、やっとスマホを持ち上げて、見れるようになっていた。 疲れて胸に置いたまま寝てしまっていたらしい。 先輩Vtuberの歌枠の配信が流れていた。 ―― 休んでる間、たくさんのおめでとうがあったのに、配信で言えなかったな。 会いたーい。配信したーい。海いきたーい。マリンスポーツやりたーい。青い空の浜、ポロってもいいから、みんなでおもいっきりフラッグ取り、めっちゃ走りたーい。海の家ラーメン、汁、周りに飛び散らかしながらくいたーい。夜はうさ耳付けてみんなとわんさか花火だあ。 彼女は次から次へと楽しいことが思い浮かび 少し体が楽になったような気がした。 10時を過ぎていた。 あっ、そういえば、と彼女はスマホを触ってバックグラウンドで開いていたpictureフォルダを見た。 暗い部屋に、以前友人たちと出かけた海の写真の、みんなの笑顔が光っている。 ベッドの中で、先輩の歌枠配信を見る前に スマホにたまっていた写真を懐かしく楽しみながら整頓していたのだった。 ―― いけないいけない、寝てばっかりじゃん、少し起きてないと。 部屋の空気を入れかえようとベッド横の窓を開けた。 夜に冷えて夏を隠したような風が巻いて入ってきた。 部屋の明かりのスイッチがなかなか見つからず スマホの画面で捜していると、耳にブンと音がきこえた。 コンコンとなにか小さい物がぶつかる音がした。 電気をつけると、目の前を黒豆のようなものが飛んでいた。 それが明かりに惹かれて電灯にぶつかっていたのだった。 昆虫にやや詳しい彼女は 「ちっこい可愛い系かな?まめこがねかな?いやちょい、細長いから違うか、なんだろ?」
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