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「あいたたた」
「どうしたんだよ」
ケイシはわき腹を抑えていた。この頃の坂田の練習メニューのせいで、体は悲鳴をあげていた。痛いのはわき腹だけではない。全身が筋肉痛だった。
「階段どれだけ昇らせるんだよ」
「今日も、終わりの見えないランニングあるかなぁ」
一番の恐怖は、走る時間も距離も分からない、坂田の気まぐれなランニングのトレーニングだ。スタミナのないダイチは、それを一番嫌っていた。
「おい、どこいくんだよ。部室あっちだぞ」
前を歩くハルトは、休むとだけ言って帰っていく。この頃ハルトは、こうして時々部活を休むことが多くなっていた。
「あいつ、本当にどうしちゃったの?」
「わからねぇ」
ハルトの様子は、明らかに変だ。練習中も、ハルトらしくないミスを出すことが増えていた。何があったのかを聞いても、ハルトは答えようとしない。
「ほっとこうぜ」
ケイシは、ハルトのことが分からなくなっていた。
「もう、ハルト先輩とはやっていけません」
1年生が、そう言い始めたのは、新人戦まで2カ月を切った頃だった。
「どうしたの?」
ユウマは、歯切れの悪い返事をした。後輩に目をやると、次々と不満の声をあげていく。
「僕らが下手くそなのは、分かります。だけど、あんな言い方……」
「確かになぁ」
ケイシも、この頃のハルトの様子はどこか気がかりだった。
「何で、そこで俺にパスしないんだよ!どうせお前のシュートじゃ入らねぇよ!」
ハルトの怒鳴り声で、1年生は皆、恐怖で固まっていた。
「すみません」
ハルトの苛立ちを敏感に察知してしまい、大事なところでミスを連発する。
「まぁまぁ。そんなに怒らなくても。もう一回やろ」
ケイシが間に入っても、ハルトは機嫌を直すことなく、ふてくされてグラウンドを去っていった。今思えば、ハルトを上手く使っていたのは、先輩達の方なのかもしれない。
「実は、前から結構、ハルトに対して不満が出ていたんだ」
ユウマが、珍しくため息をついた。
「俺からも、何度かハルトに話したんだけど……」
責任感の強いユウマは、自分を責めているようだった。
「あいつ、この頃変だからなぁ」
何かに焦っているような、そんなハルトの姿はあまり見たことがなかった。
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