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解放
僕たちはあの老人から解放された。
加藤先生は居眠りをしていたようで、後で叱られていた。
昇降口で上履きを履き替えながら僕たちは愚痴り合う。
「それにしても、新しい校長先生だったなんてびっくりだったね。終業式の挨拶なんて聞いてなかったから知らなかった!」
愛子がつぶやくと、郁夫が憤然として叫ぶ。
「あぁ! それにしたってこんなに沢山宿題出しやがって! めちゃくちゃ重いしよ!」
「でも、僕はひまわりの種をこんなにくれたから嬉しいな。うちのリスが好きなんだよ」
右京はビニール袋に入ったひまわりの種を嬉しそうに眺めると、絵里香がそれを咎めた。
「もう! 嬉しいだなんて何言ってるの! こんなに宿題があったらどこにも旅行に行けないわよ。助けてママぁー」
「まぁ元はと言えば僕たちが普段から宿題をやらなかったのがいけないんだけどね」
だからと言って、こんな大量の宿題を課されるだなんて……。
あの校長には人の心がないのか!?
「それにさ、クイズの答え! あんなの分かるわけないよね! アタシの問題、答えは『シャワー』だって!」
愛子にそれぞれが続く。
「俺の問題は『親子丼』だってよ! 趣味悪い言い方しやがってまったく!」
「僕の問題は『ひまわり』だったよ。それで種もくれたんだね」
「私の問題は『扇風機』だって。怪物だなんて言うから怖かったのに何それって感じ! 治くんの問題の答えは?」
絵里香が僕の顔を覗き込む。
「僕のは『蚊』だったよ。あーあ、冷静になればわかった筈なのになぁ。でも、まるで本物のデスゲームの始まりみたいだったよね。面白い先生だなぁ、これから学校が楽しくなりそうだね!」
夏の夜、夏休みが始まる最初の夜。
僕たちは抱えきれないほどの宿題を手に絶望しながら、だけど新学期への確かな希望を胸に持ちながらそれぞれの家路へと向かった。
<おしまい>
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