34人が本棚に入れています
本棚に追加
「いってぇなぁ! 何すんだよ!」
太一が睨み付けた。
「今のは俺からだ」
男はそう言うと、さらに力を込めてもう一発殴った。
「――それは、結愛の親父さんからだ!」
結愛はその横顔を見て息を呑んだ。
「――こ、康ちゃん!?」
その名前を聞いて、太一が結愛に視線を向けた。
「え? 康ちゃんって――お前、もしかしてこのおっさんのこと、ずっと好きだったわけ?」
「そうだよ! この気持ちは太一君には一生わからないよ!!」
結愛が泣き叫んだ。
「結愛には二度と近付くな」
康史は太一の胸ぐらをもう一度掴むと自分の方へ引き寄せ、威嚇するような低い声で言った後、勢いよく突き放した。
太一は結愛を振り返りもせず、切れた口元を押さえながら黙って去った。
康史は素早く助手席のドアを開け、「乗って」と結愛を促した。康史も乗り込むと、車を道路脇に停車させ結愛の顔を覗き込んだ。
「痛かっただろ。可哀想に……」
そう言って、結愛の左頬に優しく触れた。
最初のコメントを投稿しよう!