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「昨日図工の時間にね……」と結愛が困り顔で話し始めた。
「お隣の席の太一君が、結愛のクレパス勝手に使って、折っちゃったの。結愛の大好きなピンク色のやつ……」
「太一悪いやつだな!」
「うん……でも太一君、結愛のこと好きなんだって。この前言われたの」
「……そ、そっか」
「でもね、結愛は好きな人がいるから駄目なのってお断りしたの」
康史は吹き出しそうになるのを堪えていた。
「康ちゃん何で笑うの? だってちゃんと言っとかないと! 結愛は康ちゃんのお嫁さんになるから無理なのってね」
「――!」
康史は目を丸くした後目尻を下げて、愛おしさを爆発させたように、結愛の頭をわしゃわしゃと撫でまわした。
「もうっ、康ちゃんやめてよー! 結愛の髪ぐちゃぐちゃになっちゃうじゃん!」
そこへ、自転車で後ろからやってきた小学校の先生らしき女性が結愛に声を掛けた。
「結愛ちゃん、パパと一緒に登校嬉しいねえ」
その言葉に、結愛は顔をしかめた。
「パパじゃないし――」
女性は「あら、ごめんね。お兄さんだったかな?」と慌てて訂正する。
二十四歳の康史と小学一年の結愛は親子に見えたのだろう。
学校の門の前まで来ると、康史は結愛の頭を優しく撫で「頑張っておいで」と手を振った。
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