初恋の人

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それから数日後、美智子が深刻な面持ちで結愛に言った。 「今日幸代さんから聞いたんだけど、康ちゃん転勤になるんだって」 「え……」 結愛はしばらく呆然とした。 康史は来月から大阪に転勤で、期間は五年間と聞かされた。 康史が出発する日、朝から結愛は部屋に籠った。どうにもならないことはわかっていたが、抵抗せずにはいられなかったのだ。 「結愛、出てきなさい! そんなことしてたら、康ちゃんが出発できなくて困っちゃうでしょ!」 美智子と春樹が説得しているところへ、康史がやってきた。 「結愛、出ておいで。もう行っちゃうよ」 すると、ドアが勢いよく開いた。 「やだやだやだーー!! 康ちゃん行っちゃやだぁぁ!!」 結愛は泣きながら康史の胸に飛び込んだ。 美智子と春樹は唖然とし、そして「さすが康ちゃん」と声を揃えて言った。 康史は結愛の頭を撫でながら宥めるように言った。   「結愛? 大阪から東京なんか車であっという間だよ。何かあったらすぐ飛んできてやるよ」 「本当に?」 「うん。本当だよ」 聞いて安心した結愛は「いってらっしゃい」としおらしい態度で康史を送り出した。 結愛が中学三年になる春のことだった。
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