夏の大三角関係

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 このところ寝苦しい熱帯夜が続いている。そんな時、私は寝ることを諦めて、夜の散歩へと繰り出す。  ザザン……ザザン……と、規則正しく聴こえる波音だけが遠くに響いている。それ以外は何も聞こえない。街に響く波音に包まれながら、私は街灯の少ない道をのんびりと上っていく。  室内に籠った熱気よりも幾分か空気が軽く感じるのは、海風のおかげだろうか。  小高い丘の頂上に辿り着くと、視界が一気に開ける。  目の前に広がるのは、幾万もの星が涼しげに輝いている広い空。一際白く輝く月の光を一筋映す、大きな黒い海。そして、その黒とコントラストを成すように天高く咲く、黄色い向日葵たち。  私はこの景色が好きだ。あと一つ揃っていれば完璧な日になるのだが。  そのあと一つを確認したくて、丘の端へ歩み寄ろうと一歩を踏み出したとき、静かな空気を破る声がした。 「やぁ。(おり)ちゃん」 「白鳥(しらとり)さん。こんばんは」  白鳥さんは向日葵畑の端に備え付けられたベンチに座り、両手を少し後ろについてのんびりと空を見上げていた。 「眠れないのかい?」  空を見上げたまま、優しく問い掛けてくる彼のそばへ歩み寄りながら、私はコクリと頷いた。 「ええ。寝苦しくて。少し夜風に当たろうと思ったんです。それに、もうじきかなとも思ったので」 「ああ。そうか。でも、今日は無理みたいだよ」
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