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「もうすぐ満潮になる。満潮になると、ここは沈んでしまって危ないから、僕らと安全なところへ行こう」
「大丈夫です。水が来れば、私だって分かります。お気遣いなく」
見知らぬ男性たちに、易々とついて行くほど私は子どもではなかった。白鳥さんの手をチラリと一瞥した後、私は彼らを棘のある言葉で突き放した。
そんな私の言葉に先に踵を返したのは彼だった。白鳥さんの隣に居ながら、ただただ訝しげな視線を私に向けてきていた彼は、一言も言葉を発せずに、背を向けて去っていった。
「ちょっと待てよ。晴彦」
去って行く彼の背中に慌てたように声をかけた白鳥さんは、困ったように私と彼の背中を交互に見比べていたが、頑なに無視を決め込む私に諦めたのか、やがて差し出していた手を下ろすと、口早に言った。
「本当に早く浜から上がるんだよ。じゃあね」
彼らが去り、再び波音だけが辺りに響く。私は目を閉じ、無心で波音に包まれていた。近づき、離れ、また近づく。そんな規則正しい音が、思春期真っ只中の歪な形をした私の心を平らにしてくれるように感じていた。
心が軽くなったような気がして目を開ける。いつの間にか、水が目前まで迫ってきていた。
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