スペース

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チャイムが鳴って、礼をする。瀬戸はまだ真剣にノートを取っていた。 「瀬戸って意外と真面目?」 「んー」 適当な返事が返ってきて、そんな必死に何を書いてるのかと思えば、Commandだった。 「瀬戸、それ……」 「これね、雪弥に使いたい」 「えっ」 ドキンと胸が鳴る。 ノートには、“Present(見せて・晒せ)” “Strip(脱げ)” “Crawl(四つん這いになって・這え)” などがたくさん書かれていた。 真面目に授業受けてたんじゃなかったのか。 「お、俺?」 「うん、ダメ?」 ダメじゃない。本能がこの人に従いたいって言ってる。 「っ……いいよ」 ボソッと呟いた。けれど、それを聞き逃さなかったらしく、「ホント?!」ってすごく嬉しそうに言った。 「あ、Safe word決めないとね!」 「Safe wordって…どこまでするつもり?」 「えへっ」 えへっ、じゃないよ。 思わずキッと睨みつける。 「Stop〈やめろ〉」 鋭い目つきで据えられる。 睨むのをやめると、笑顔で「Good boy〈いい子〉」と頭を撫でられた。 「んへ…」 頭も目もトロンとする。 「ありゃ。Sub spaceに入っちゃった?」 ふにゃりと力が抜ける。ガタン!と音を立てて倒れ込む。  SubはSpaceに入ると、Domしか見えないし見れない。だから俺は周りに人が集まっていることにも気づかない。  Spaceに入れるということはDomを信頼しているということ。 それにすら気づかない俺はどれだけ馬鹿なんだろ。 ……とにかく今はまつりしか見えなくて、ふわふわしてて、至福の時を感じる。 酩酊状態の時、俺の場合はホントに酔ったみたいな感じ。ふにゃふにゃして、ふわふわする。呂律とかはなんともないけど、口調もふわふわしてあまりはっきりしない。 「雪弥、おいで」 「うん」 Commandを使われていなくても従う。従いたい。まつりがしゃがんで、背中に乗る。どこに向かってるのか分からない。まつりの背中で揺られて心地いい。  暫くしてピタリと止まった。ガラガラと扉の開く音がして、ベッドに寝かされた。 「?…まつり?」 「ん?ここだよ」 トントンと一定のリズムで撫でられてまたうっとりする。 「いい子。Command使わなくても言うこと聞けるの。」 「うん、まつりなら聞く」 「ふふ、出会ったばっかりなのにいいの?」 「うん、まつりだからいい」 「……」 笑顔が少し引き攣る。 「まつり、?」 「危機感。持った方がいいよ」 「え?」 「Kiss〈キス〉して」 「っ、うん」 ゴクリと固唾を呑む。 チュッと触れるだけのキス。それだけでドキドキが止まらない。 「もっと」 いつもより少し低い声にゾクリとする。 おずおずと口を近づけて少し舌を伸ばした。
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