開戦ムード全開集会

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開戦ムード全開集会

前に、温羅(うら)の桃太郎へのリベンジ成就の細蟹(ささがに)事件の時、人化オーガのコミュニティの集会場になっていた、高利貸しの雑居ビルは、燃えるような戦意と闘志に満ちていた。 集まった人化オーガは、優に500人を越え、どうやってロシアにたどり着き、プーティンをぶちのめすのか、侃々諤々にやり合っていた。 「ジェットが駄目ならよう、飛行船ってのはどうだ?!一発だろう?!」 声を上げたのは、例の騒ぎの時にイキっていた鳶の親方だった。横には友達の税理士鬼田村さんもいた。 「ロシア空軍の哨戒網を越えられませんよ!だから無学だって言うんだ」 「何をこの!生っ白い黄色の分際で!」 「黄色かったら何だ?!赤の脳筋馬鹿が!」 人化オーガのコミュニティにおいて、色によるショボい反目があった。 例えば、赤鬼は脳タリンのジョックス。黄鬼は理屈屋のブレインズ(ガリ勉)。緑鬼は不健康なゴス(変人)、黒鬼のオタク(ギークス)。といった感じで、一枚岩には程遠かった。 ただでさえ、血の気の多い人化オーガには、露助なんか一捻りという認識があったが、勘解由小路降魔の逮捕と暴行報道を越え、第2次東鶏冠山攻略作戦が勃発せんとしていた。 槍玉に上がっていた、霊防省職員の人化オーガ枠で入省した、高松信一郎は、ジョックスの頭の足りない物言いに、そろそろ限界に達しようとしていた。 ああもう、空からロシアに侵攻?ミグに蜂の巣にされるだけだろうが。 どうしたの?こいつ等?203高地見すぎて脳ミソ陸式になってんの? マジで第四軍とか組織して、生きてロシアを越えられると? こんな馬鹿を相手にしなきゃなんないとは。 つい、思考が表情に表れ、胸ぐらを掴まれた。 「あんまよう、俺等馬鹿にすんなよ?」 あー。殴り合いかー。黄鬼は赤鬼に勝てないとでも? だったら、黒鬼には及ばないが、俺の術を見せてやるよ。馬鹿鬼共め。 鬼の諍いが、ブルーカラーとホワイトカラーの諍いに発展し、ついに爆発か?となった時、 「やめんか!今すぐ手を離さぬか!しれ者共が!」 割って入ったのは、最強の赤鬼だった。 浦部尊(うらべたける)。別名を鬼神温羅と言った。 「う、浦部社長?でもこのガキャ俺等を虚仮にしやがって」 机を天井に蹴り上げめり込ませて、別の赤鬼が言った。 「ゴロ巻くんなら外でやんな。棟梁」 若頭。少し怯えが入っていた。 有限会社ヤーマの副社長、要するに元ヤクザ、山ノ上健(やまのうえたける)。別名を、阿久良王(あくらおう)と言った。 何が恐ろしいって、彼等はブッチギリの最強鬼で、真面目な話、全ての人化オーガの力の頂点にいる男だった。 ただし、鬼哭啾啾(銀正男)は除く。 「魔上皇猊下が囚われ、我等の上に立つ鬼哭啾啾(きこくしゅうしゅう)殿まで北の地にいるこの状況で、よもや人化オーガ同士の喧嘩沙汰か!恥を知るがよい!また、そのザマで、我等人化オーガの魔丞(まじょう)たるお方に、合わせる顔があろうか!?」 ま、まさか。いるのか?あのお方が? 「揉めてんわねあんた達。大体、今ここで揉めてどうすんの?今この瞬間にも、中国のポンコツ戦闘機がEEZ越えてくるかも知れないのにね。扉の前で立ってろ。棟梁と高松」 こんなおっかない人妻がいるのか。 日本の霊的防衛の首魁。陰陽皇女(元)百鬼姫、風間紀子様が、わざわざ訪れたのだった。 日本が滅んでも1人だけ無傷な陰陽師、風間紀子様に逆らえる、妖魅も人化オーガも1人もいなかった。 「さて、さっきの朝のニュースで小鳥遊の馬鹿がウッカリ漏洩した写真を、霊防省が解析した。敵は蚩尤(シユウ)に間違いないと霊視班以下全員が認定した。蚩尤(シユウ)狩りに行くわよ?ああ静也!静紀(しずのり)美紀(みき)ちゃんと抱いとけ!」 夫の志那都(しなつ)の風神風間静也(かざましずや)に、頭の上から命令する鬼のような母ちゃんがいたという。 お、おお!美紀様だ!美紀様じゃあ!と我先に、人化オーガ達は姫の初姫、風間美紀様(1歳5ヶ月)に恭順の意を示していた。 「静紀様と静也様可愛い!きゃあああああ!」 とかオーガ母ちゃん達も騒いでいた。 「ノリリン済まん。オーガ達は、無事美紀ティーの軍門に落ちた」 「こういう場でノリリンはやめろって何度も。何で?赤ちゃんじゃんか美紀」 そりゃあ、母ちゃんなんかほど勘解由小路(馬鹿)に染まってないからだった。 「日本海はいずもとジムーンの編隊に任せる。陸路で上海から上陸し、敵を滅茶苦茶に斬獲しながら隠密に北京を目指す。案内頼むわよ?ささめ?」 ピーと、コノハズクが鳴いて、紀子の肩に止まった。 勘解由小路家のペットにして番鳥、コノハズクのささめ。 死んだ、勘解由小路降魔の祖父、細の生まれ変わった姿だった。 ところで、滅茶苦茶に斬獲しながら隠密に?相変わらず言うこと滅茶苦茶だな。俺達の姫様は。二ノ宮慧(にのみやさとし)は思った。 とうに、百鬼姫の小飼の人化オーガは、こうなることを見越して二ノ宮は送り込まれていたのだ。姫に。 「高松、二ノ宮、松本、上野。霊防省職員以外は外で待ってて。本来霊防省で頭捻ってなきゃいけないのに、ノコノコこんな集まりに顔出した件を説教してから、中国反攻のタイミング等話し合いましょ」 わざわざ顔を出しちゃった4人は、物凄い叱られる。 早くも、二ノ宮以外の職員は、軽い尿漏れを起こしていた。 「馬鹿師匠はロシアで、私達は中国で。取って返して北京からロシアに行くわよ?知恵を貸せ」 どうやってロシアに侵攻するのか。それが決まらず揉めかけていたのに。 あっさり侵攻ルートが頭に刻まれているらしい紀子は、永遠の真理に肉薄した陰陽皇女で、やはり勘解由小路の弟子に違いなかった。
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