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墜天怒りの大反攻
チェルノボーグの妖力で、ウクライナに駐留していたハデスの軍勢は、既に追い散らされていたが、未だに制海権は、ハデスの手にあった。
例えば、ロシアの戦略原潜2隻が辛うじて健在である、ルィバチ基地には、今も巨大な潮の一吹きがあり、北方領土の北、カムチャッカの極東、ルィバチ基地は、まるで怯えたようにひっそりと静まり返っていた。
体長300メートルの地獄の鯨という、モビーディックをはるかに越えた大海獣が、入り江を周回していた。
「これでよいのか?下らぬロシアの原潜を封じ込めるだけで、今海は完全に凪いでいる」
グリフォンを騎獣にした入江さんが、そう呟き、天に轟かん大海獣の声が、空気を震わせた。
「確かに、そうだな?海原さん。ん?」
僕全員集合。三田村さんの意志が、全世界に満ちていた。
「行こう相棒。三田村さんが呼んでいる」
仮定的存在の城という、果てのない空間が広がっていた。
入江さんと、人間の姿をとった海原さんは、めいめいが椅子に座った、70人の僕の会合場所を訪れていた。
あ。定岡の馬鹿が、狐池さん共々幼子にもみくちゃにされている。
「相変わらずのご様子ですな?定岡殿」
「やかましい!さっさと終わらせろって言うのに!」
うにゅ?口を引っ張られた。
「ととー。とっとー」
末姫の水色様に気に入られていた。
「これはお可愛らしい姫様。にゅ。にゅううう」
「おととー。おっとっとー!」
何といういたいけな。 優しく抱え上げ、近場の椅子に座った。
「ああ姫様!ハネワワはもう!あはあああああ!」
「ハネワワ!ハーネーワワー!」
三つ子の姉2人に、腹をワシワシされていた。
「カークリノーラス!それでいいのか?!こんなところまでやって来て!少しは大人しくしていろ!にゅううううううう!やめおおおおおおお!」
「定岡さんはあれでいいのよ。とと。今回はよく頑張ったわね?」
こ、これは! 慌てて平伏しようとしたが、末姫はお気になさらずおっしゃった。
「貴方と鯨さんのお陰で、極めて平和に海は守られた。航空機による侵攻は、ハネワワとジムーン編隊があれば、少なくとも日本海をロシアが越えることはない。ただ1つ、心配ごとがあって、あ。始まるわね」
ちょこんと膝の上に腰かけた水色様を抱いて、入江さんは、壇上に上がった三田村さんを迎えた。
まるで、ミルトンの失楽園か。啾啾と燃え立つ硫黄に、終弥から響く慟哭、そして、赤ん坊に口を引っ張り回される俺様を端に座らせて!お前が壇上に立つか!シャックスの分際で!
定岡さんはブリブリに怒っていた。
「お集まりいただき至極恐縮です。此度のご主人様による、面白半分な、反ロシア活動が行われました。みなさんのお働きで、無事誰1人欠けることなく、ロシアに対する嫌がらせ作戦は成功しました。なお、作戦は、無事怪我なく帰るまでが作戦です。特に北方に出張中の入江さん、海原さんは、気をつけて帰ってきてください。それは、ご主人様の命です」
たのしい遠足か何かか。
「そう。たのしい戦争ごっこ。我等は悪魔です。今、私は執事にすぎませんが、蓋を開ければ我等は同類。実に面白半分に、敵に破滅を、死を届ける者。そして、この映像をご覧あれ」
あーふん。調子に乗りまくったハデスのカスが、ロシアの猿人共に捕まり、暴力を受けている映像だった。
ふと気づいた。あれ?石榴様に紫様、世の深刻さなど気にしたこともない赤ん坊が、揃って歯を食いしばって泣いていないか?
「パパ虐めたチェルノボーグ。しゃー」
「しゃー」
何威嚇音出してんの?
空に、硫黄が降り注いだ。
何これ。何キレてんの?お前等?
こんなの俺様の日常じゃねえ?キレるようなこと?
「坊っちゃまを傷つけし、露助の集団に死を。終弥の野で、私勘解由小路家家政婦は、三田村さんと手を結びました。露助に地獄を」
「露助に地獄を!」
メイド共が声を上げた。
あれ?何でいるの?こいつ等?
ただのババアじゃねえか?何で突然いんの?
「私は勘解由小路家の執事ですが、それでも。少しだけよろしゅうございますか?ああああああああああああああああああああ!チェルノボーグのゴミカス如きが!俺のご主人様に上等こきやがって絶対許さねえぞおおおおおおお!ブチ殺したらああああああああああああああ!!」
轟さんが、面をかなぐり捨てた。
恐ろしい、狂暴な霊気に満ちていた。
「ブチ殺すぞチェルノボーグがああああ!今この状況で!ご主人様守らねえでチェルノボーグ殺したくねえって奴いる?!いねえよな?!」
何?原初の12人何でこんなキレてんの?
俺様がこのガキ共に何されても屁とも思わねえくせに。
「今、ご主人様は囚われ、一時的にご主人様の支配から逃れましたが、それでも!私は勘解由小路降魔様の!冥王ハデスの杖先であります!この上は!我等総出でチェルノボーグを滅ぼし!ご主人様を取り戻そうではありませんか!かの地に破滅を!いざ征途へ!」
死ぬほどおっかない、家政婦ババアと執事ジジイが並び立っていた。
「征途へ!征途へ!」
「入江さん以下!飛行能力!騎獣を持った僕は、メイドさんを乗せて出撃!露助を皆殺しにいたしましょう!」
「貴女達、それぞれ武装してモスクワを目指しなさい!坊っちゃまに敵対する愚劣に、破滅と滅びを!」
「もす!梨花ちゃん行くだすよ!妹ちゃん達は三つ子のお姉ちゃんに預けるだすよ!」
あれ?正男の嫁までいた。ってか何で訛ってんの?
勘解由小路家上空を、アルマゲドンみたいな地獄の軍勢が、ロシアに向けて出撃していった。
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