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第一話 王様がやってきた
正月開けて二日。
「おめでとうございます」「おめでとう」
でっかい玄関から続く廊下は人であふれかえっている。
「どうぞこちらへ」
「どうだい、今年は」
そうですね、なんて兄貴もちゃんとした社長だ。
「よ、おめでとうさん」
晴彦さんが来た、一応ちゃんとあいさつしねえとなという。俺がおめでとうと言うと、おめでたいか?だってさ、まあいいけど。
「入れよ」
「おめでとうございます」
片言の日本後でのあいさつ、そこには外人さん、肌の黒いでも真っ黒じゃない日に焼けたような肌に、きれいなグリーンの目、それにダンディというかまるで俳優、誰?この人。
挨拶は中に入ってからと、俺を押していく。
「晴彦さんこの方誰?」
「トミー?ああ、彼が王様」
オ、オウさま!嘘~?
「ハハハ驚いてやがる、かわいいだろ?」
「はい、よろしくね、千弘」
よろしくお願いします。たは、いいのかよ、普通の家だぞ、こんなんでいいのか!
次から次と来る客を相手に、魅録さん達親戚も来て。
「ウソ、マジかよ」「ビックリしたよ、ほら、あの奥にいる人」
「まったく、あの人はわからん」「俺もだよ」
はー、なんて二人で溜息。
「千弘君」
声を掛けられた。そこには健の父親、お久しぶりですとあいさつし、魅録さんを紹介。
彼が会長なんてと話しはじめた。それでもしっかりやってるからといい、健を呼んでくると、そこを魅録さんに頼んだ。
キッチンへ行き、叔父さんが来たことを言うと彼は飛んで行った。
「なんだかんだ言っても、やっぱり好きなんだよな」
今日は、リンもいる、彼も、リオと二人で、昨日は仕事から帰ってくると挨拶をしていた。
ばあちゃんは、うちからアイドルがでるなんて嬉しいですね―なんて言ってたけど、ほんとうちの女性陣はのほほんとしてるよな。
「あここに居た、リン、リオ、お父さん」「え?」「わざわざ来たのかよ」
それでもなんかうれしそうな二人、俺は、客の相手をしに、応接室へ向かった。
俺たちがこの家に来てから、正月のお客様の相手は俺たち子どもの役目となっている、もちろん、真も、怜もだ。まあ親戚は、子供も来るから。
「ワーイ」「二階に行ってろ」
その声も聞いてんだか。
広い玄関は、客が来るから開けてある。
知ってるものは、勝手に入って来るし。
「あの」「はい」
スーツ姿の男性二人。
「あけましておめでとうございます」
ハア、おめでとうございます、どちら様?
お忙しいところ申し訳ございませんが、私ども、こういうものです。
名刺をいただいた。
総理大臣秘書?
「アポイントはとってあるのですが」
「社長でしょうか?」
会長だという。
「どうぞおあがりください」「失礼いたします」
大勢の人をかき分け、爺ちゃんの秘書を捕まえ、名刺を渡した。
「どうぞ、こちらです、千弘君、君もお願いします」
俺も?
書斎に通し、座って待っていただいた。
すぐに爺ちゃんが来た。
「お待たせして」「いいえ、こちらこそ、お忙しいのに申し訳ございません」
「すぐに見ますか?」「ぜひお願いいたします」
「千弘、作業場へご案内して」「今から?」
そうだという。
俺は、また玄関へ彼らを連れていき、靴に履き替えた。
「どうぞ、こちらです」
「失礼いたします、ほう、これは見事」
「すばらしい」
二人は、盆栽を見て回った。
そこにゆっくりと来た爺ちゃん。
「いかがですかな」
「はい、どれも素晴らしいです」
「どれになさいますかな」
〈大変心苦しいのですが、ぜひ、もう一つお借りしてもよろしいでしょうか〉
どれでしょう。
「あれをお願いできませんでしょか」
指差した先、そこには、俺の作った桜の木があった。
「でもあれ」「ええ、四季桜、寒桜ですよね、ですが素晴らしい、この寒さでこれだけの花をつけるとは」
「いいじゃないか、これは私のではないが」
「お孫さん、千弘様の作品ですね、しっかりとしたいい作品です」
「じいちゃん?」「ああ、貸してくれと言われてな、当初、松だけだったんだがな、かまわんじゃろ」
いいけどさ。
それでは、お借りいたしますと、すぐに、作業着を着た人が、二つの鉢を持って行ったんだ。
「総理大臣が使うの?」「そういう事だ、まあ、帰って来るからいいじゃろ」
爺ちゃん疲れてない、無理するなよ。
「今日だけはな、親戚も来るし、ち―」
はい?
「これらは、お前が支えてくれよ」
「何言ってんだよ、まだまだだからな、みんな、ちゃんとした所に入れてやんないと、どうすんだよ、これだけの子が待ってんだからな」
まだ手つかずの植物が無造作に作業場の隅に放置されている。
俺だけじゃ無理、爺ちゃんがもらってきたんだろ、最後まで面倒見てやれよな。
そう言うと、爺ちゃんはああそうだなと笑って作業場を出て行ったんだ。
「もう、やりたいのはいいけど、無計画すぎるんだよね、なあ、わかるだろ?」
「千弘は、植物と話が出来るんですか?」
そこに、王様がはいってこられて、びっくりした。
素晴らしいですね、全部千弘の物ですか?
爺ちゃんの物がほとんどだと答えた。
日本の植物は、いろんなものがあって素晴らしいですね、四季があるからだろうなと言われた。
「私の国は、もう植物もダメね、海水じゃ」
海水?あ、そうだ。
「殿下、温室に行きませんか?」
隣にあるハウスへ案内した。
そこには、俺たち園芸部員が作ったアクアリュウムがきれいに並んでいた。
「ワオ、ビューティフル」
俺は殿下に、見てほしいものがあった、それは豊田の会社の物だ。
「これは、俺の友人が作った物なんです、汚れた水をろ過する機械はいっぱい出ています、それは飲み水にまでできるすぐれたものです、でもそれじゃ駄目なんだ、人間だけが潤ってもしょうがないと思うんです」
俺たちは、この学園に入って、植物と接しているときに気付いた物があり、その中に、汚れた水の再生法を考えた、それは、科学物質でも、綺麗にならない水、そう、海水。
「ミネラル分が邪魔をするんです」
「塩じゃなくて?」
それと、大きな問題はゴミにある。
「それはわかります、でも、撤去はむつかしい」
一つ気が付いた事があった、それはあの厄介者のポリ袋、それが油を吸収するという事。
「油ですか?」
「その油を吸ったものは、資源になる、燃やせるんだ」
「ですが、ガスや」
「そんなのは、作った国に任せればいい」
「任せる?」
「そう、ビジネスにするんだ、ごみを、北に売りつければいい」
今、世界はプラスチックや、ポリエステルなんかに飢えている、だがごみをリサイクルするなんて言うのは、ほんと一握りの国しかしていないのが現状。
海は世界の中心だというのをわからせないといけない、だから、この国が最初の突破口を設けてほしい。
「それと海水とどう関係があるのですか?」
「サンゴの死骸に、フィルターの役目があるのはご存知ですか?」
知っていると答えられた。
「では、ホタテなどの貝殻に、消臭機能があるのはご存知ですか?」
それは、何か手を加えてだろうと言われた。
確かに手は入れる、だがそれは、藻や不純物を取るために洗浄するだけで、ほとんどはそのまま乾燥させ、それを一度焼く。もちろん、肥料や、いろんな製品もあるから、それは加工をしているのもあるが、今はそれはいらない。
どういうことだと聞いてきた、俺はすぐ隣にある、池へ彼を案内した。
影が出来ると集まって来る鯉たち。
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