第三話 プロジェクト

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「どこですか?ッと」 んーと、ああ、いたいた。 「お疲れ様です」 「遅くなった、始まった?」 「たぶん、行きましょう」 インド行きの精鋭部隊が整ったのだ。 バブル期、中国に一度は進出したものの、早くに切り上げたのは正解だった。何かと日本人を目の敵にしてきたのはある程度の年齢層から上の人たち、戦争を知っている人たちだ、彼らは事あるごとに日本人や、店を攻撃し、それを楽しむように若い力が仰ぎたてた、人権侵害なんて言っていられなかった、日本人が攻撃されることで、中国人たちも攻撃され、もうそこで何かをするということはできないと爺ちゃんは撤退を決意したんだ。 ほかの国では今のところそういうことは起こっていない、だって俺たちは、その国にノウハウを貸しているだけにすぎないんだ、何も日本と同じにやれということではない、その国にあったやり方もあるわけだから、それでちゃんと成功しているんだし。 今度はこの国でどれだけできるかだ。 食品スーパーとしては、初めての試みが多い。 量り売り、それは、肉魚だけではなく、穀物や香辛料もだ、タナに置いて売るというのは、この国では無理だ、人の多さと、管理ができない。盗みは、盗みではないととらわれる、神の思し召しの国。だからと言って罰則がないわけではない、まだ処刑がある国だ、自分たちもどんなことに巻き込まれるかわからない。 フロアーを各部屋のように区切ったのでは日本の食品売り場と変わらない中で、市場のようにして、両隣、後ろも見えるような区切り方をするスタイルがとられる。 お金もレジという感覚がないから、現金を自分たちで管理することになるのだ。ただこの国においての現金は今はだいぶ少ない、ほとんどがチップ化、スマホ決済、手のひらに埋め込まれたチップをかざして決済する。初めて見たが、もうこの国ではそれが当たり前になっているのだ、だからレジよりは、それに対応する機会が各売り場におかれているんだ。 一階も二階もすべて食べ物関係、薬、衛生商品、洗剤などはセキュリティーをかけ、棚に並べるがどれもが見渡せ、それを見る人が数人いるということをわからせるという。 現地コーディネーターや聿さんたちがしっかり見て来たことを今度は彼たちが受け継いでやっていくことになるのだ。 日本とは全く違う、挑戦が始まるんだ。 ホールには二百人の人が集まり、今まさにその現地の話を聞いている所だった。 「今まであれば、受け皿を作り、そこへ赴いて、現地の人を調達していった、だが今度は違う、受け皿も現地の人を交えてしていく、そうしなければ、現地の人だけに任せておけないという、苦い経験を我々は過去にしてきたからだ、君たちにはリーダーとして、その責任を持ってもらい、押し上げていってほしい」 「それでは今から割り振りを行い、スケジュールを言い渡します。今までより多い人数のため、各支店等での研修となります、渡航時期もそれぞれとなりますので、自分の名前のところはよくチェックなさってください。では、ご自分の名前、宿泊施設を確認のうえ、解散させていただきます、以上です」 「お名前のない方、それと、前もって連絡の行っていた方々は前の方にお集まりください」 「行こうか」 「はい」 俺は一番後ろから前の方に行こうとした。 「千弘さん」 「あー、北海道の」 「来ましたよ!」 「ありがとう」 「社長代理、来ましたからね」 「ありがとう、よろしくお願いします」 「社長代理、ありがとうございます」 「ここにいるということは大学卒業出来ましたね、おめでとう」 「チャンスをいただきありがとうございます」 俺が採用した人たちに声をかけられた、やる気満々と言ったところで俺もうれしくなってきた。 「社長代理、時間がないので早く前へ」 マイクで呼ばれた。みんなが笑っている、俺の前が開いた。 よろしくと言いながら前に、そこには、社長の選んだ精鋭たちがずらりと並んでいた。 この人たちは、明日には、現地へ行ってじかに見てくる人達なのだ。 俺は思わずよろしくお願いしますと頭を下げた。 スケジュールや細かいことが話され、数枚の書類にサインをしてもらう、保険や、渡航に関して必要な予防接種等、いろんなことをしてもらわなければいけないからだ。 武者震い、海外での大きな仕事に着手した瞬間だった。 俺は社長と車に乗っていた。 「もう寝てる」 「はは、疲れたんだろう、何を聞かれたか、あとで聞かないとな、千弘、お前との新しい時代が始まるぞ」 父さんはそう言っていたそうだ。
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