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結局、その後亜貴の両親との話し合いを経て、亜貴はこっちに残ることになった。
一緒に住んでいたマンションも、自分が使っていた部屋も、まるで初めて見るかのように不思議そうに眺める亜貴との新しい生活が始まった。
亜貴の記憶は高校卒業くらいで止まっていて、それに伴って亜貴の性格も以前に比べると少し幼くなった。
リハビリやカウンセリングを続けながら、簡単なアルバイトなんかを始めたりしている。
こんなことがあっても、俺がDomで亜貴がSubであることは変わらない。
一緒にいれば、互いに惹かれ合う本能からは逃れることが出来なくてーー……
こんな俺に亜貴をどうこうする資格なんてないと思っていたから、プレイすることなんて考えられずにいた。
なのに亜貴から日に日に漏れだす甘いフェロモンと、したいという亜貴に誘われて、俺たちはベッドの上で向かい合っていた。
「……亜貴、Kiss」
言えば頬を赤く染めた亜貴が、辿々しく俺の唇に唇で触れる。
まるで初めての時のような、そんな慣れない姿が何かを掻き立てていった。
許されるだなんて何一つ思っていない。
こんな俺が亜貴に触れる資格なんてない。
また傷つけるのが怖くて、プレイするのが怖かった。
それでも亜貴は今俺の目の前で跪いて頬を染め、俺からの命令を待っている。
「Strip」
1つ1つ、亜貴がシャツのボタンを外していく。それすらも愛の仕草のように見えた。ゆっくりと晒された白い肌に唇を沿わせていく。
「……っ」
敏感な場所をなぞると亜貴の吐息が漏れる。どこもかしこも愛おしくて、苦しくて、欲しくて。
ナカの感触を指で確かめながら、勃ち上がった亜貴のそこに唇で触れると、しなやかな背中が仰け反るのが見えた。
まるで壊れものにでも触れるかのように俺は亜貴の身体に触れ、溶かしていった。
亜貴は顔も身体も仄かに赤く染め、何度も甘い声を上げる。
「亜貴……、Present」
呼吸を乱し、瞳を潤ませながら、恥ずかしげに身体を隠そうとする亜貴の耳元で言う。
記憶と人格が逆行して、少し幼さすら感じる亜貴の身体がゆっくりと開かれていく。
繋がる身体から感じる亜貴の全部。
揺らして、重なって、1つに混じり合ってーー。
「……っ」
俺が熱を吐き出したのと同時に、亜貴も達した。
とても緩やかなプレイだったのに、互いにはぁはぁと乱れる息遣いが、愛しくて切なくて。
「亜貴……」
額に浮かぶ汗で張り付いた髪を、優しく鋤いてやる。
「……Good boy……」
「……」
言いながら亜貴の髪を撫でた。
亜貴は心地よさそうな、安心しきった顔で俺の胸にもたれかかる。
こんな簡単なことを俺は何年も亜貴にしてやったことはなくて、亜貴を苦しめて、そして壊した。
亜貴の柔らかな髪を撫でているうちにその手が震えて、涙が次から次へと溢れてくる。
「……っぅ」
ついに堪え切れずに嗚咽を漏らした俺を、心地良さげに身を委ねていた亜貴が不思議そうな顔をして見上げた。
「……ごめん、ごめん……亜貴……、ごめん……っ、ごめ……っ、ごめんな……っ」
嗚咽と共に溢れるのはそんな言葉と、なんの価値もない俺の後悔と涙。
もっと早くにこうすれば良かった。
もっと早くに気付いてやれば良かった。
もっともっと亜貴が大切だと、最初から伝えていれば良かった……。
「……っ」
ふいに伸ばされた亜貴の掌が俺の頭を撫でた。
親が子どもにするみたいに、優しく優しく、何度も頭の上を往復する。
ーー亜貴。亜貴……っ
涙で滲む目の前には亜貴の優しい顔があって。
亜貴が優しく俺を抱き締めた腕の中で、乾いた地面に染み込む雨のような涙を俺は流し続けた。
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