カナリヤ

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駅に着くと急いで亜貴の乗る新幹線乗り場を掲示板で確認する。 ホームに入るために適当に切符を買って、人混みを掻き分けて走った。 次に来る電車の放送案内が絶えず行き交う駅の喧騒の中を、ただ1人亜貴の姿を探して走った。 「……あっ、亜貴……っ、亜貴っ!!!!」 新幹線が停まったホームでまさに今乗り込もうとしている亜貴と両親の姿を見つけ、俺は全力でその名前を呼んだ。 驚いた表情をこちらに向ける両親とは正反対の、無表情とも言える表情を亜貴は俺に向ける。 全力で走ったせいで肺と心臓が千切れそうなくらいに痛かった。 整わない乱れきった呼吸では声すらまともに出ない。 それでも、それでも俺は亜貴に伝えなければならないことがあった。 バカでクズでどうしようもなく最低で、罰を受けて当然のDomである俺が。 優しくて健気で穏やかで、その日常を理不尽に奪われてしまったSubの亜貴に。 「お願いです!!! 亜貴と一緒にいさせてください!!!!」 俺の言葉に、両親は明らかに困惑した表情を向けた。 「俺がバカだったんです……! 俺が、俺が亜貴を大切にしなかったから……、だから亜貴は抑制剤を飲まなきゃいけなくて、だから……っ」 声は涙で滲んで、酸欠の頭じゃまともに言葉にもならなくて、けれど俺は涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で亜貴と両親に頭を下げ続けた。 「俺が責任を持って亜貴の面倒を見ます! ちゃんと治療も続けられるようにします! 許していただけるなら一生パートナーとして傍にいます!! 許していただけなくても一生亜貴の傍にいたいんです……! 俺が、亜貴の傍にいたいんです! 俺が、亜貴じゃないとダメなんです……!!」 支離滅裂で何を言っているか自分でもわからない。でもそれでも、俺は泣きながら頭を下げ続けた。 「……」 両親は戸惑いながら顔を見合せていて。 そこに、ふいに場違いなほどの穏やかな声が響いた。 「僕のこと、好きなの……?」 俺は弾かれるように顔を上げる。 穏やかな表情で俺を見つめる亜貴がそこにいた。 「ね、僕のこと好き?」 「……っ、亜貴……っ?」 記憶がーー……? そう淡い期待が胸を過った瞬間。 「キミは誰? 名前、何て言うの?」 「……」 無邪気に向けられた視線に、胸の中で何かが消えていく。でも、それでも俺は。 俺は、亜貴をーー 「……良川、凛也だよ」 「凛也くん。ね、僕のこと好き?」  亜貴を引き寄せ、ぎゅっと抱き締めた。 何も変わらない、温かな亜貴の体温。 「……好きだよ、亜貴が好きだ……。大好きなんだ……」 言葉にするとなんと頼りなくて薄っぺらいんだろう。でもそれ以上の言葉は何もなくて。 涙で掻き消されていくその言葉の向こうで、亜貴が静かに微笑んでいる気がした。
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