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私はシートベルトを外し、いったん車から降りた。
トランクに入れた荷物から、クリアファイルを出す。
1枚だけ紙を入れた封筒が、2つ。
「はい! 今日の行程!」
それを後ろの2人に渡した。
「まずは芦ノ湖行きます! んで、そこでイタリアン食べます!」
「はーい」
「じゃあ、とりあえず行くね」
「はーい」
「お願いしまーす」
車は、母娘3人を乗せて、出発した。
↓2人に渡した栞(と呼んでいいのか)。原本の写真。
中央道は、空いてもいないが、詰まるほどの混雑ではなかった。
西へと走らせれば、遠くに富士山が見える。
おおっと思いつつ、そうだ今からもっと近くまで行くんだった、と気付いたら少しおかしかった。
濃いめの青空に、白くて元気な雲。
いい天気だ、旅行日和。
子供の頃から、家族で出かけると言えば、車だった。
夏の旅行は、それこそ箱根。日帰りなら、江の島や鎌倉あたり。
両親ともに東京出身だから、お盆に他県に帰る習慣もない。車で行ける範囲を出ることがなかったのだ。
そして、車の中ではいつも音楽が流れていた。
目から入ってくる景色、耳から入ってくる音楽、出かけることを楽しみに思う気持ち。いつだって、私にとってこれらはセットだった。
音楽を聴けば、いつだってフロントガラスの向こうが思い浮かぶ。
だから、この旅行がスピッツの新曲と共に動き出したことは、私にとってこの上ない幸せだった。
しかも、裏切らない。どの曲も好きだ。
あまりに心にしみすぎて、何なら泣きたくなりすらある。
いかん、いかん。さすがに運転中だ。現実に戻ってこい。
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