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それぞれが思い思いに休んだ後は、何となく集まってお茶を飲んでいた。
もう何を話していたかも思い出せないくらいの、他愛ない話をする。
夕食はバイキング形式だが、一応は時間が決まっている。
時間制、というわけではない。宿泊客が集中するのを避けるため、入店時間をずらすのだ。
私たちは、18時半にレストランに向かえばよい。まあ、そんなに急がなくてもいいだろう。
そう思っていたのが、よくなかった。
「あれ、もう5時じゃん!」
ふと、部屋の掛け時計を見て驚いた。
おかしい、4時前に来たはずなのに。
「え、夜ご飯何時だっけ」
「6時半」
「まずいまずい、まだ何も支度してないよ」
3人、バタバタと支度を始めた。
「ねえ、普通の浴衣もあるよ」
「じゃあ私、そっちにしようかな」
と母が言った。
祖母は、自分で選んだ浴衣をサッサと着ている。
「私も普通のにしようかな」
地味な浴衣を手に取り、広げてみた。
「……」
襟元に、サイズMと刺繍されている。
この時点で予感はしていた。多分これ、小さい。
旅館の浴衣のサイズで、MとLどちらと聞かれたら、私は間違いなくLを選ぶ。大中小だったら、大だ。
平均的なサイズからして、女性客にはMが用意される。それはわかる。
しかし、私は平均的ではないのだ。Mを着てみてごらん、つんつるてんだ。
「やっぱりダメだ!」
今回も例にもれず。
まるで、かぶき者の着流しみたいになっている。あるいは、うっかり子供用を着てしまった男子中学生みたいだ。
もしやと思って、持ってきた浴衣を広げてみた。腰ひもがあるということは、きっと――。
「あ、こっちの方が長い! 私やっぱりこっちにする!」
おはしょりが、悲しいくらい短かったが。
「ええ……みんなそれにするなら、私も着ようかな」
と母が言い出した。
「着なよ、着なよ。どうせ知ってる人なんていないし」
「上着あるから、そんなに見えないよね」
「うん」
わあわあ言っている私と母、1人でサッサと支度を済ませた祖母。
早くしないと、ゆっくり浸かる時間がなくなってしまう。
3人、バタバタと部屋を後にした。
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