21人が本棚に入れています
本棚に追加
「ふう」
数分後、我々は無事(?)、温泉に身を沈めていた。
大浴場は、これまた思ったより広かった。洗い場が、部屋に対してコの字に設置されている。
その分、数は少なくなるわけだが、何が嬉しいって、シャワーが後ろに飛ぶのを気にしなくていいことだ。
全体的に、ゆったり広々作られている。
「こっちにして正解だったね」
と私は母に言った。
「うん、こっちの方がいいよ」
答える母は、ゆでダコのように真っ赤だ。
祖母も、少し離れたところで温泉に浸かっている。
脱衣場では、ロッカーの鍵がうまく閉まらないと言い、洗い場に来たら今度は、鍵を閉め忘れたと戻っていった祖母であるが、今はのんびりお湯を楽しんでいる。
高齢になってヌケたのもあるだろうが、元が少し天然の入っている人なのだ。
こうだと思ったのに、なんか違ったとか、うっかり忘れたとか。
まあ……私もそういうところがある。
信じてほしい。最初はそう思っていた、あるいはそうしたはずなのだ。
でも、できていなかっただけなのだ。自分でもよくわからない。自分が1番、わからない。
意図せぬケガなど、まさにその典型である(しかし、意図してしたケガというのも一体何なのか)。
両親にも、その傾向がないとは言えないが、私ほどひどくはない。
ああ、私のこういうところは、祖母から似たのかな……などと思ったのだった。
そう言えば、祖母も突拍子のないケガをすることが多い。
いつか、自転車のカゴにビールの24本ケースを入れて走っていたら、重すぎて制御不能になり、転んだことがあったなどと話していた。
そりゃ、転ぶに決まってると、母が呆れていたのを覚えている。
「鍵、母ちゃんが持ってた方がいいんじゃない?」
と私は尋ねた。
「うん、だからもう私が持ってる」
「仕事早っ」
すっとぼけた母親と娘を持つこの人も、大変そうだ。
最初のコメントを投稿しよう!