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温泉を満喫した我々、いったん部屋に戻ってきた。
髪を乾かし、着替えて、夕食に備える。
このまますぐレストランに行けば、18時半には間に合いそうだ。
「ねえ、これさ」
ふと、祖母が話しかけてきた。
「持ってきちゃったんだけど、どうしよう」
そう言って見せたのは、大浴場のロッカーの鍵。
母と私の目が、テンになった。
チェックイン時に渡された、小さいお風呂の鍵ではない。大浴場の、元からかかっている鍵であった。
「何で持って帰ってきちゃったの!?」
「うーん……なんか持ってきちゃった」
出た、やらかした本人がよくわからない事態。
本人はきょとんとし、娘と孫が大爆笑している図が完成した。
今この瞬間も、空であるにも関わらず誰も使えないロッカーが存在してしまっていることになる。
本来であれば、すぐに戻してロッカーを開放するべきなのだが――。
「いや、時間がない! 夕飯のあとにしよう」
1か所くらい、大丈夫だろう。大浴場はそこまで混んでいなかったし、コロナ対策なのだろうか、あえて間隔を開けて使えないようにされていた。
それより、早くレストランに行かないと。
「ねえ、何で持ってきちゃったの?」
移動しつつ、私はこっそり母に尋ねてみた。
「知らないよ、私がわかるわけないじゃん」
そりゃそうだ。
もしかしたら、小さいお風呂の鍵と混同したのかも、と考える。
しかし、考えたところで真の理由がわかるはずはない。
だって、本人がわかってないのだから。
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