母娘3人、箱根旅→´23.05.24~25

22/33
前へ
/281ページ
次へ
 朝食が想定外に遅くなったものだから、その後の支度もバタバタしていた。  ただし、母と私に限る。  最低限の荷物で来た祖母は、サッサと支度を終わらせてしまった。  私たちが服も着ていないうちに身支度を終え、キャップをかぶり、忍者のごとく片膝立ち座りをした状態で口紅を塗っていた。 「早っ」 とつぶやいた母と私が遅いのか、祖母が早いのか。  多分、どっちもどっちだ。 『チェックアウト時は大変混みますので、朝8時から清算だけ済ませておくことが可能です』  チェックイン時、そう言われていた。  つまり、手続きや清算は先にしておいて、10時になったら勝手に出て行っていいというわけである。  本当は私もそうしたかったが、ズボンも履いていないし、トイレも行っていない。  清算よりもまずは、己の身支度が先だ。  結局私たちが部屋を後にしたのは、ギリギリ10時、数分前のこと。 「でも、そんなに混むのかな?」  そもそも、ここの宿は部屋数が少ない。  さらに滞在中、他の宿泊客をほとんど見なかった。  1組だけ、夕食と朝食時にすれ違ったのだが、その他は全く人の気配すら感じない。 「結構みんな、もう早めに出ちゃってるかもね」 「そうかもね」  母とそんなふうに言いながら、1階に下りたら――。 「あれ」  人がいる。  ソファーに座っている初老の女性2人組。今日初めて見た。  とりあえず、母と祖母をソファーに座らせた。私だけがフロントへ向かう。  鍵の返却と、昨晩の飲み放題の清算。それから、入湯税を支払う。 「大浴場のロッカーの鍵はございますか?」  唐突に聞かれて、私の頭上に『?』が浮かんだ。 「ロッカーの鍵……は部屋ですが……あ、それも持ってきた方がいいですか」 「お願いいたします」  よく考えたら、鍵だ。貴重品だ。放置しておいていいわけがない。  というか、チェックイン時に渡されたのだから、チェックアウト時に返すのが普通だろう。 「じゃあ、はい、取ってきます」  さながら、運動会の借り物競争である。  床を蹴り、階段を駆け上り、部屋に戻った。  鍵を持って、また部屋を飛び出す。綺麗に磨かれた木板張りの廊下。靴下で走ると、ちょっと滑る。 「……持ってきました」  息が切れているのを隠しつつ隠し切れないまま、フロントに返却した。
/281ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加