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「今回、どこかで写真撮りたいなあ」
旅行に行く前、母がそう言っていた。
「なんか……遺影に使える写真が欲しいなって」
そっちかい。
それは半分(!)冗談の話で、つまりはここ最近で記念になるような写真が欲しいということであった。
私たちが子供の頃は、孫たちにかこつけて写りもしたが、もうずいぶん前の話だ。
いつか祖母が亡くなって、最近の思い出となる写真や、遺影に使えそうな写真がないのも、確かに少し寂しい。
「ああ……撮れたら、どこかで撮ろうか」
と、私も賛成したのである。
そして今。
「撮るなら、今じゃない?」
と母が言い出した。
確かにチャンスだ。そして、もう訪れない気もする。
「自撮り、できる?」
「どうやってやるの?」
母にインカメを教え、祖母を呼んで画面に入ってみる。
正直、私も自撮りをしない。友人と撮っても、彼女たち任せだ。
ゆえに、じゃあ私が撮るよ、とも言えない。
風景の撮影は慣れてるんだけどな……。
1番背の低い祖母と、母に前に来てもらう。背の高い私が後ろに回った。
何を思ったのか、祖母がしゃがみ、画面から消えてしまった。
「お母さんしゃがまないでいいんだよ!」
と母が言う。
多分、前列だからしゃがもうとしたのだろう。
今思うと、インカメを見てもいないし、インカメに気付いていないし、そもそもインカメが何かもわかっていない。
とりあえず、集合写真の要領で座ったのだと思われる。
なかなか苦戦しているうちに、祖母が『もういいよ、私なんか撮らなくて』と言い出す。ああ、ちょっと待って、ちょっと待って。
「これでいい? 押すよ、押すよ?」
ダチョウ倶楽部と化した母が、何度か写真を撮った。
「ああ、まあいいんじゃない?」
「いっか、これで」
ならいっそ、近くの人に頼めばよかったと思われた読者の方へ。
そんな勇気は、我々にはない。
母にも、私にも。
だって、親子だもの。
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