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九頭竜神社にも参拝し、熊野は御朱印をもらい、K子さんは権現からめもちが売り切れていたことにしょんぼりし、元来た道を戻っていく。
例の、流されている疑惑が浮上した、ボートの横を通った。
「……」
ボートは、相変わらず岸から少し離れたところでふよふよ浮いている。
「流されてないね」
「大丈夫そうですね」
ボートの無事を確認した我々は、さらに散歩を進める。
「あ、クローバー。四葉あるかな?」
「四葉のクローバーって私、見つけられたことないんですよね」
相変わらず狭い世界で生きている熊野である。
「意外とね、探すとあるんだよ」
そうなのか……一体私はどこを見ながら生きてきたんだろう。
あったら面白そうだと、大人2人腰をかがめて草をかきわけてみる。
「人に踏まれやすいところとか、そういう環境の厳しいところによくいるの」
とK子さんは言う。
「四葉ってつまり、突然変異ってことでしょ? 環境が厳しいと、それに耐えようとして突然ポッと変わったりするわけ」
「そうか、のうのうとしているクローバーは、変わる必要もないですもんね」
のうのうとしているクローバーとは一体。
結局クローバーは見つけられず、若干痛む腰をさすりながら散歩を続けた(ただしK子さんは全くもって平気そうであった)。
ぽつりぽつりと店が並んでいる。お土産屋、軽食屋、営業しているところしていないところ。
それらを見ては、こちらもぽつりぽつりと会話をする。
「お茶と虫押え……虫?」
店前の張り紙を読んでみる。虫とは腹の虫のことであった。つまり、軽食屋だ。
残念ながら、店は閉まっている。開いていたら、どんなものか少し覗いてみたかったけど。
「なるほど!」
「そういうことね!」
「私なんか、水虫とかそういう治療をするところだと思いました」
「私もそんな感じかと思った」
かと思えば、特に箱根とは関係ない雑談、お互いの話。
なんだろう、この感じ。既視感がある。
あ、旅番組だこれ。
でもこれがいい。この緩い感じが、いい。
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