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話が盛り上がって止まらなくなったのは、多分に私が酔っていたからだと思う。気が付けば、あっという間に9時過ぎ。
まずいまずい、これからK子さんに芦ノ湖近くのホテルまで送ってもらうのだ。チェックイン時間の門限もある。あまり遅くなってはいけない。
間違っても、いつもの『23時過ぎても終電あるから全然大丈夫』のノリでいてはいけない。
箱根は、温泉街だ。
ゆえに……というのは、あくまで私の勝手な予想であるが。温泉に浸かることを観光の目的とするなら、宿泊はやはり夕飯とセットが自然だと思う。
それも、早め(夕方の4~5時)には宿に来てもらい、温泉に浸かり、夕飯(もしくは酒)を楽しんで、早めに眠りにつく。
現代ほど夜が明るくなかった昔の旅人たちが、そうしてきたように。
だから、時刻は9時過ぎだというのに、まるで深夜の1時かそれくらいの暗さと静けさであった。
こんな時間の箱根、確かに私も外に出たことがない。すごく、不思議な気分だった。
芦ノ湖から少し山道を上がったところにあるホテルは、周りが真っ暗であった。
K子さんに別れの挨拶をする。
言いたいことは色々あったし、ゆっくりしたい気持ちもあったが、時間が時間だ。最低限のことだけ済ませて、ホテルに飛び込んだ。
何より多分……ゆっくり挨拶をしてたら、寂しくなって泣いてしまう気がしたのだ。
ああ、これだから酔っぱらいは嫌だ。
寂しさに無理やりふたをして、チェックインをする。感傷に浸るのは後でいい。今は、とにかくシャワーを浴びて寝る支度をするまで漕ぎ着けなければならない。
フロントで鍵を受け取り、部屋に入る。
少し虫が多いのが気になったが、いったん目をつぶることにした。諸々、支度をせねば。
歯ブラシ等のアメニティは、部屋ではなくフロントそばの棚から自由に取っていくシステムになっている。
かつて、散々オートロックでインキ―をかましてきた私だが、今回はドアノブについた鍵穴に、鍵を差し込んでガチャリと回すタイプだ。安心、安心。
よし、外に出よう。鍵を忘れずに持つ。ドアノブに鍵を差し込み、回し、鍵がかかったことを確認する。
後はこれを抜いて行けば――抜いて……ん?
鍵が抜けない。
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