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これは一体どういうことだ。ミナカラスカを超える混乱が、私を襲う。
押し込みながら抜けばいけるか? いけない。反対に回して、鍵がカチャリと開くまで戻して、抜く。抜けるが、これでは意味がない。
なんだ、どうすればいいのか。鍵がかけられなければ、部屋から出られないではないか。私は明日チェックアウトするまで、朝ごはんにも行けず、浴場にも行けず、この部屋で過ごすことになるのか。
いやいや、そんなわけにいくまい。
幸い、部屋とフロントは同じフロア、しかも角を曲がってすぐ、という近さだった。周りに人がいないのを確認し、忍者のごとくフロントに駆けて行く。
奥に引っ込んでいたスタッフさんを呼び、状況を説明する。
「鍵が抜けない……ということは今、鍵穴に刺さったままの状態ですか?」
すみません、そうです。
スタッフは足早に部屋へ向かった。そりゃそうだろう、ホントごめんなさい。
これです……と弱々しい声で私が言うより早く、スタッフは鍵を取って回し始めた。
1度、2度、回す。スッ。
「取れました」
「??」
「鍵穴をこうして――横にすれば取れますよ」
「!?!?」
なんということだろう。
無理やり引っ張るでも押し込みながら回すのでもなく、鍵穴を水平にした状態で抜く、これが正解だったのだ。
どうしてそれを思いつかなかったのか。
とにかくスタッフに平謝りするしかなかった。なんてくだらないことで呼びつけてしまったのだろう。ホテルマン人生において、こんなことで呼ばれたかどうか、彼に聞いてみたい。いや、やっぱりいいや。
彼は開いてよかったです、と模範的な発言を残して、足早にフロントに戻っていった。何か仕事中だったのかもしれない。何度も言うけど、本当ごめん。
改めて、自分でも鍵を回して、取れるか確認してみる。水平に向けると、先ほどの固さが嘘のように、するりと抜けた。
「……」
歯ブラシ、取ってくるか。
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