小田原の友人に会いに行く&もちろん箱根も~1日目~→’22.06.17

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 これは一体どういうことだ。ミナカラスカを超える混乱が、私を襲う。  押し込みながら抜けばいけるか? いけない。反対に回して、鍵がカチャリと開くまで戻して、抜く。抜けるが、これでは意味がない。  なんだ、どうすればいいのか。鍵がかけられなければ、部屋から出られないではないか。私は明日チェックアウトするまで、朝ごはんにも行けず、浴場にも行けず、この部屋で過ごすことになるのか。  いやいや、そんなわけにいくまい。  幸い、部屋とフロントは同じフロア、しかも角を曲がってすぐ、という近さだった。周りに人がいないのを確認し、忍者のごとくフロントに駆けて行く。  奥に引っ込んでいたスタッフさんを呼び、状況を説明する。 「鍵が抜けない……ということは今、鍵穴に刺さったままの状態ですか?」  すみません、そうです。  スタッフは足早に部屋へ向かった。そりゃそうだろう、ホントごめんなさい。  これです……と弱々しい声で私が言うより早く、スタッフは鍵を取って回し始めた。  1度、2度、回す。スッ。 「取れました」 「??」 「鍵穴をこうして――横にすれば取れますよ」 「!?!?」  なんということだろう。  無理やり引っ張るでも押し込みながら回すのでもなく、鍵穴を水平にした状態で抜く、これが正解だったのだ。  どうしてそれを思いつかなかったのか。  とにかくスタッフに平謝りするしかなかった。なんてくだらないことで呼びつけてしまったのだろう。ホテルマン人生において、こんなことで呼ばれたかどうか、彼に聞いてみたい。いや、やっぱりいいや。  彼は開いてよかったです、と模範的な発言を残して、足早にフロントに戻っていった。何か仕事中だったのかもしれない。何度も言うけど、本当ごめん。  改めて、自分でも鍵を回して、取れるか確認してみる。水平に向けると、先ほどの固さが嘘のように、するりと抜けた。 「……」  歯ブラシ、取ってくるか。
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