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その日、温泉は断念して、シャワーだけで済ませることにした。
理由はいくつかある。まずは、時間が遅いこと。疲れていること。そして、酒が少し残っていること。
さらに、ホテルに売店もなければ酒つき自販機もなく、温泉に入った後の飲み直しができない。きっと、温泉に入ったらすっかり目も覚めるだろう。その後に酒が飲めないのは、正直痛い。
となれば、今日はサッサと寝て、温泉は朝風呂で楽しむことにした方がいいだろう。2日目もやりたいことがあるのだ。あまりのんびりはしていられない。
ちなみにホテルにて酒を入手できないのには、一応事情がある。元々、フロント横にドリンクバーがついていて、宿泊者はお酒を自由に飲んでいいのだ。
もちろん、私だって宿泊者だからその権利を持っている。ただ、チェックインした時には、かのゴールデンタイムは終わっていたのだ。さすがに、24時間OKとはいかない。
ユニットバスで汗を流し、とりあえずは体をサッパリさせる。
「ああ、そうだ」
お昼、そばを食べた後にK子さんがくれた、パリパリ焼きモンブランの存在を思い出した。
酒飲んで、おでん食べて、甘いもの食べて、でちょうどいいじゃないか。どれ、せっかくだから食べよう。むしろ、今食べないとリュックの中でつぶれてしまう可能性が高い。
その名の通り、お菓子の上半分はパリパリのパイ生地で覆われている。さらに、粉砂糖が振ってあった。
ふむ、これは下にティッシュでも敷かないと、後で大変なことになるやつだ。
顎が外れるかってくらい大口を開けて、かぶりついた。
美味。うまい、うますぎる。パリパリのパイ生地も、それを甘く仕上げてくれる粉砂糖も、中に入った栗ももちろん、下のやわらかくて甘い生地も。
甘いが、甘すぎのレッドゾーンを超えない、ちょうどいいギリギリの位置にいる、この甘さ。やや、背徳の味さえする。
栗が好き、甘いものが好き、菓子が好き、これらに当てはまる人は、絶対食べたほうがいい。
「これ、明日絶対買って帰ろう」
広い部屋に1人ポツンと座る寂しさが、ほんの少し和らいだ気がした。
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