熊野の熊野による、熊野のための熊野詣~24.02.25~

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 新宮駅9時13分発、名古屋行き。  私が今日帰る電車の時刻である。  ホテルまでは徒歩10分ほど。東京駅みたいに大きくもなければ、複雑な構造をしているわけでもない。  だから、そんなに余裕を持つ必要もないけど――まあ、早めに出ましょうかね。  荷物もまとめなければならない。当然、身支度もする。8時半くらいに部屋を出て、チェックアウトして行けば、ちょうどいいくらいだろう。  ホテルを出たら、外は見事な雨だった。  繰り返すようだが、本当にこれが昨日じゃなくてよかったと思う。  いいんだ、あとは帰るだけだから。  右手に傘、左手は安定感に欠けたキャリーバッグ。天気のせいか、やっぱり人はいない。時々、車が横を通りすぎるだけ。  駅に到着し、濡れた折りたたみ傘を丁寧に巻く。時間に余裕を持ってきて、よかった。  9時になったところで、ホームへ向かった。この駅、階段しかない。上り方面へは、改札から地下通路を通って、向こうへ行く。  すでに、人が並んでいた。あれ、ここ指定席の乗車口よね?  3連休の最終日となれば、やはり人はいるのだ。しかも、1日4本しかない特急。駅に着いて、さらにそこから家まで帰るとなれば、この9時台の電車か、次の12時台のどちらかだ。実質、2本だ。  電車がやってきた。みんなで、ゾロゾロ乗り込む。今回は、団体さん一行はいなかった。 ↓入線する南紀特急。ややブレているのは、まだ減速しきっていないせい。0157d87c-ce2c-495d-9f16-628467b9ec51  予約した窓辺の席に座る。さよならと心の中で言う間もなく、電車はサッサと発車してしまった。  旅の終わりなんて、こんなものさ。  まだ帰っていないくせに、もう来たくなってしまう。でも、そんな気持ちも徐々に薄れていって、日々の生活の中でぼんやり想う程度になる。  知ってるもの、今までもそうだったから。  だけど――やっぱり、また来たいという気持ちに、嘘はない。  これは自分との約束だ。だから、緩くてもいいんだよ。
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