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硫黄のにおいの強い、強羅温泉。
先に体を洗い終えたA奈が、足を突っ込んだ。
「あっつ!」
「え、熱いの」
「熱い、熱い」
浴槽のふちに置いてあった、板を見つけた。
「これでかき混ぜるんだ」
「へえ」
その手の温泉は初めてである。しかし、なるほど。かき混ぜ必須の温泉とあらば、いきなり足を突っ込むのは危険だろう。
「草津もね、そうなんだよ」
とA奈が言った。
「いいなあ、草津行ったことない」
「いいよ~草津」
聞けば、A奈のお父さんが草津の方の出身で、彼女も何度か行ったことがあるのだそう。
「草津も、いつか行ってみようか」
「そうだね、行きたいね」
箱根の温泉に浸かりながら草津の相談をするとは、あまりに気が早すぎだ。
強羅温泉、効果はてきめんである。
上がってからも、身体が暑くて仕方ない。脱衣所の扇風機を浴びても、汗が止まらない。せっかくお風呂入ったのに。
しかし、その汗さえ気持ち悪く感じないのも、また温泉マジックである。
部屋に戻り、ドライヤーを当てれば、ホカホカかつスッキリという気持ちよさだ。
「ああ、暑い!」
一方のA奈は、まだ温泉効果をもろに受けているようだ。
「ごめん、ちょっとヤクザみたいになっていい?」
「ヤクザ?」
「暑いわ、ちょっと上脱ぐ」
そういうと、彼女は浴衣の袖から両腕を引き抜いた。上半身、キャミソールのみとなる。確かに、かなりワイルドだ。
「あ、そういうことね」
ヤクザの意味が、やっとわかった。
「なんか、こういう時代劇なかったっけ」
部屋をウロウロしながらA奈が尋ねる。
「何だっけ、暴れん坊将軍じゃなくて」
「遠山の金さんじゃない?」
「ああ、それそれ。遠山の金さん」
「見たことないけどね」
さて、次はお待ちかね夕食の時間である。
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