また箱根に行くwith台風8号~→´22.08.13

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 硫黄のにおいの強い、強羅温泉。  先に体を洗い終えたA奈が、足を突っ込んだ。 「あっつ!」 「え、熱いの」 「熱い、熱い」  浴槽のふちに置いてあった、板を見つけた。 「これでかき混ぜるんだ」 「へえ」  その手の温泉は初めてである。しかし、なるほど。かき混ぜ必須の温泉とあらば、いきなり足を突っ込むのは危険だろう。 「草津もね、そうなんだよ」 とA奈が言った。 「いいなあ、草津行ったことない」 「いいよ~草津」  聞けば、A奈のお父さんが草津の方の出身で、彼女も何度か行ったことがあるのだそう。 「草津も、いつか行ってみようか」 「そうだね、行きたいね」  箱根の温泉に浸かりながら草津の相談をするとは、あまりに気が早すぎだ。  強羅温泉、効果はてきめんである。  上がってからも、身体が暑くて仕方ない。脱衣所の扇風機を浴びても、汗が止まらない。せっかくお風呂入ったのに。  しかし、その汗さえ気持ち悪く感じないのも、また温泉マジックである。  部屋に戻り、ドライヤーを当てれば、ホカホカかつスッキリという気持ちよさだ。 「ああ、暑い!」  一方のA奈は、まだ温泉効果をもろに受けているようだ。 「ごめん、ちょっとヤクザみたいになっていい?」 「ヤクザ?」 「暑いわ、ちょっと上脱ぐ」  そういうと、彼女は浴衣の袖から両腕を引き抜いた。上半身、キャミソールのみとなる。確かに、かなりワイルドだ。 「あ、そういうことね」  ヤクザの意味が、やっとわかった。 「なんか、こういう時代劇なかったっけ」  部屋をウロウロしながらA奈が尋ねる。 「何だっけ、暴れん坊将軍じゃなくて」 「遠山の金さんじゃない?」 「ああ、それそれ。遠山の金さん」 「見たことないけどね」  さて、次はお待ちかね夕食の時間である。
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