また箱根に行くwith台風8号~→´22.08.14

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 並ぶとは言っても、レストランやカフェで待つのとはわけが違う。じわりじわり列が進み、順番がやってきた。 「さあて、何を買うか」  混んでいるから、パンを取るにも1列になって進まなければならない。  つまり、後に引けないのである。  であれば、躊躇している場合ではない。これを昼に食べて、これは明日に回して――いや、考える前にトングを伸ばせ。  このお店、決して安い値段ではない。しかし、この機会を逃したら2度と食べられないパンがそこにあるかもしれないのだ。臆するな、パンをつかめ。買わない後悔より、買う後悔だ。  ひと通りパンを選び、レジの順番を待つ。  何となしに振り返ったら、食パン、フランスパンコーナーがあった。  これは、冷凍して今後の朝ごはんにせよというお告げだろうか。 「あれ、買おうかな……」  私の独り言を、A奈が拾った。 「いいじゃん、買いなよ!」  見れば、1斤はラスト1つだ。あとは、丸々1本のものしか残っていない。まだ昼だというのに、もう売り切れてしまうというのか。  これは、ますます買えと言われている気がする。  レジの列からすっと抜けて、食パンを覗き込んだ。 「あ、ダメだ。これ、切れてないよ。うち、パン包丁ないんだ。切れないや」  諦めて戻ってきた私に、なぜかA奈がハッパをかけてきた。 「大丈夫だよ! 普通の包丁でも切れるから! 菜名、せっかくあるのにもったいないよ! 買いなよ!」 「え、パンって普通の包丁で切れるの?」 「いけるいける、多分」 「多分!?」  いや、買うのも切るのも私なんですけど。  迷っている間に、レジの順番が迫ってくる。 「ええい、買ってまえ」  私はパンの入ったビニールの上をつかむと、すでにスペースのないトレイの上に載せた。  合計7点。有料のビニール袋を含めて、2188円なり。  こんなに買って私、1人でいつ食べるんだろう。  なお、後日食パンを、普通の出刃包丁で切ってみた。  全く、切れなかった。食パンは美味しかった。
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