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並ぶとは言っても、レストランやカフェで待つのとはわけが違う。じわりじわり列が進み、順番がやってきた。
「さあて、何を買うか」
混んでいるから、パンを取るにも1列になって進まなければならない。
つまり、後に引けないのである。
であれば、躊躇している場合ではない。これを昼に食べて、これは明日に回して――いや、考える前にトングを伸ばせ。
このお店、決して安い値段ではない。しかし、この機会を逃したら2度と食べられないパンがそこにあるかもしれないのだ。臆するな、パンをつかめ。買わない後悔より、買う後悔だ。
ひと通りパンを選び、レジの順番を待つ。
何となしに振り返ったら、食パン、フランスパンコーナーがあった。
これは、冷凍して今後の朝ごはんにせよというお告げだろうか。
「あれ、買おうかな……」
私の独り言を、A奈が拾った。
「いいじゃん、買いなよ!」
見れば、1斤はラスト1つだ。あとは、丸々1本のものしか残っていない。まだ昼だというのに、もう売り切れてしまうというのか。
これは、ますます買えと言われている気がする。
レジの列からすっと抜けて、食パンを覗き込んだ。
「あ、ダメだ。これ、切れてないよ。うち、パン包丁ないんだ。切れないや」
諦めて戻ってきた私に、なぜかA奈がハッパをかけてきた。
「大丈夫だよ! 普通の包丁でも切れるから! 菜名、せっかくあるのにもったいないよ! 買いなよ!」
「え、パンって普通の包丁で切れるの?」
「いけるいける、多分」
「多分!?」
いや、買うのも切るのも私なんですけど。
迷っている間に、レジの順番が迫ってくる。
「ええい、買ってまえ」
私はパンの入ったビニールの上をつかむと、すでにスペースのないトレイの上に載せた。
合計7点。有料のビニール袋を含めて、2188円なり。
こんなに買って私、1人でいつ食べるんだろう。
なお、後日食パンを、普通の出刃包丁で切ってみた。
全く、切れなかった。食パンは美味しかった。
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