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K子さんは、慣れた様子で池のほとりに向かった。エサやり初心者Lv1の私は、ぽけーっとしたまま、マスターの後ろをついていく。
エサやり場というのか、一部だけ池の囲いが低くなっていて、そこに立ってエサを投げ入れることができる。
池には先客がいた。2、3歳くらいの男の子と、そのお母さん。
参拝に来たわけではなさそうだ。きっと、地元に住んでいる人たちで、散歩をしに来たのだろう。小田原城近辺は、自然豊かで草花もたくさんあるし、小さな子供を連れていくにはピッタリの場所だと思う。
私にとっては観光地でも、この子にとっては近所の公園なのだ。いつか、大人になった時に、よくここに来たなあなんて思い返すのだろうか。
そんなことを勝手に思っては、勝手にほっこりする熊野であった。
「今、ちょうどお腹すいてるようですよ」
挨拶を交わした後、お母さんがそう教えてくれた。
親子はエサやりはしていない。男の子が呆然と突っ立って、池の様子を見ていた。おそらく、コイは気になるけど少し怖い、といったところか。
K子さんが進み出て、男の子の隣でエサを投げてみた。
エサやりLv1は少し離れた後ろで見ていたが、それでもコイがビチビチ言いながら集まってくるのがわかる。
男の子は固まったままだ。
「ちょっと怖いみたい」
とお母さんが笑って言った。だろうなあ……。
親子はその場を後にし、お互い挨拶をして別れた。男の子と入れ替わりに、初心者が舞台に入場した。
まずは、マスターの技を見ようではないか。
K子さんがエサを投げた。
「うわお」
コイはうっひょーと言わんばかりに、歓喜乱舞。なんというか……すごい迫力だ。
普段、あまり魚の顔を正面から見る機会がない。鮮魚コーナーに陳列されている魚はもれなく横向きだし、水族館の魚もなんでか横を向きがちだ。
やっぱり、魚って変な顔だなあ……と思う私である。
そんな変な顔が、十何匹も集まって、しぶきをあげながら水面に顔を出し、パクパク口を開け、時には仲間の上にまで乗り上げているのだから、だんだん滑稽に見えてくる。
とにかく、絵面が強かった。これは、男の子も固まるわけだ。
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