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だが、しかし。
それから1か月後の、9月。A奈から連絡が来た。
『突然ですが、11月からオーストラリアに行くことになりました!』
「!?!?」
詳しく聞けば、ワーキングホリデーを利用して滞在するのだという。
彼女は、昔から海外へ行くことに興味があった。あったと言っても、どこそこの国で何がしたい、という具体的な目標があるわけではない。
ただ、何となく、行きたいところに行きたかった。やったことのないことを、やらないまま終わるのが、嫌だった。
しかし、漠然とした気持ちだけに対する後ろめたさと、年齢もあまり若くないこと、日本での生活にキリをつけられなかったことがあって、なかなか踏み出せずにいた。
ワーキングホリデーの申請は、ずっと前に済ませていたらしい。
が、その申請にも期限がある。
「もう、行くっきゃないと思って」
とA奈は言った。
「多分、ここで行かなかったら後悔するよ」
と私は返した。実際、そう思ったから。
「うん、私もそう思う。周りは色々言うかもしれないけどさ、責任取ってくれるわけじゃないもんね。私がしたいと思うこと、しないと」
きっと、一緒に箱根に行ったあの時には、もう決めてたんだろうな。
何と言うか、突然の報告も含めて、あの子らしい。
しばしの別れに、会いたい人に片っ端から会ったら、急に寂しくなってオーストラリアに行きたくなくなってしまったなんて言うのも、あの子らしい。
行き来をすると旅費がかかるという理由で、1度向こうに行ったらしばらく帰ってこないと言う。
次に日本に来るときは、オーストラリアから引きあげた時だ。
そんなわけで、A奈は今、オーストラリアにいる。
『また箱根に行くwith台風8号』Fin.
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