食べるだけの旅、それは終わりのない挑戦

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「ちょっと、しょっぱいの挟んでくるわ。――もうだいぶお腹苦しいけど」  おもむろにN子がそう言って、席を立った。  戻ってきた彼女のお皿には、煮物の大根とからあげ、それぞれ2つずつ。 「なんか、大根なら水分だしごまかせるかと思って」 「いや……水分って、逆にお腹にたまらない?」 「そう……なのかな」  2人とも満腹かつ、そのせいで少し眠くもなってきている。おかげで、問答が適当になっていた。  いや、訂正しよう。問答が適当なのはいつものことだった。  ところで、だ。  まあ、大根の選択はまだわかる。ピザやグラタンを食べるよりは重くないし、口の中を変えるにはちょうどいいだろう。しかし――。  大根より正直気になっていたのは、からあげの方だった。  揚げ物なんか、重いに決まっているではないか。どう考えても、1巡目に取ってくるメニューである。しかも何故2個取ってきた。  だが、ここは言わずにいておこう。  おそらく、あと数分後には彼女が1番それを実感することとなろう。私に言われては胃の苦しさとダブルパンチ、それではあんまりだ。  きっと、からあげも悪者にされてしまうだろう。世界の平和を保つためには、今は何も言うまい。  親友同士でも、何でも言っていいわけではない。  相手を思えばこそ、飲み込んでおくべき言葉がある。決して、『あんた何でからあげなんか取ってきたの』と言ってはならない。  私の予想通り、N子はからあげに苦戦していた。言葉には出さないが、あきらかに箸が進んでいない。  頑張れ、N子。  心の中でそっとエールを送り――私は2回目のスイーツの旅に出かけた。
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