21人が本棚に入れています
本棚に追加
「ちょっと、しょっぱいの挟んでくるわ。――もうだいぶお腹苦しいけど」
おもむろにN子がそう言って、席を立った。
戻ってきた彼女のお皿には、煮物の大根とからあげ、それぞれ2つずつ。
「なんか、大根なら水分だしごまかせるかと思って」
「いや……水分って、逆にお腹にたまらない?」
「そう……なのかな」
2人とも満腹かつ、そのせいで少し眠くもなってきている。おかげで、問答が適当になっていた。
いや、訂正しよう。問答が適当なのはいつものことだった。
ところで、だ。
まあ、大根の選択はまだわかる。ピザやグラタンを食べるよりは重くないし、口の中を変えるにはちょうどいいだろう。しかし――。
大根より正直気になっていたのは、からあげの方だった。
揚げ物なんか、重いに決まっているではないか。どう考えても、1巡目に取ってくるメニューである。しかも何故2個取ってきた。
だが、ここは言わずにいておこう。
おそらく、あと数分後には彼女が1番それを実感することとなろう。私に言われては胃の苦しさとダブルパンチ、それではあんまりだ。
きっと、からあげも悪者にされてしまうだろう。世界の平和を保つためには、今は何も言うまい。
親友同士でも、何でも言っていいわけではない。
相手を思えばこそ、飲み込んでおくべき言葉がある。決して、『あんた何でからあげなんか取ってきたの』と言ってはならない。
私の予想通り、N子はからあげに苦戦していた。言葉には出さないが、あきらかに箸が進んでいない。
頑張れ、N子。
心の中でそっとエールを送り――私は2回目のスイーツの旅に出かけた。
最初のコメントを投稿しよう!