食べるだけの旅、それは終わりのない挑戦

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 しかし、私も人のことを言えない状況になりつつある。ひと口サイズのケーキだからまだ何とかなるだけだ。  今から、カレーとピザをどうぞと言われたら、ズボンのボタンを外すことを交換条件にせざるを得ない。 「美味しいけど、だいぶ苦しいぞ」 「今日、この後餃子があるんですけど」 「……まあ、それはそれで」  時の流れに期待するしかあるまい。 「横になりたい。そしたら、だいぶ変わるんだけどな」 と私は言った。 「食べてすぐに横になったら、牛になるよ」 「大丈夫だよ、もうほぼ牛だし」 「……マジか」  この返しは意外だったようで、N子は苦笑いを浮かべている。 「そうよ、あなた今日、牛泊めるのよ」 「私、家に牛泊めるのか……」 「そう」 「それでいいのか」  まるで、人間としてのプライドを持てと言われているような。  しかし、仕方ない。ないものはないのだ。  すまんな、こんな友達で。うははは。  いくら牛と化しても、胃袋には限界がある。  食事が2回、スイーツが2回、最後にコーヒーを飲んで、90分の食べ放題は終了した。  お腹が苦しくて痛いのは当然のこと、なんだか背中まで痛い。  大丈夫か、これ。 「いやあ、食べたね」 「でも美味しかったね」  ふくれたお腹を抱えて、駐車場に戻る。 「お土産、先に買ってよかったかも」 と私は言った。 「今、ちょっとお菓子とか見ても、どれが美味しそうとか考えられないや」 「それは確かに」  N子の車に乗り込む。 「じゃあ、宇都宮行こうか」 「お願いしまーす」  ナビに目的地を入力する。 「N子、あのさ」 「ん、何?」 「苦しいから、車に乗ってる時だけズボンのボタン外しててもいい?」 「おう、いいよ」  なんか、本当に……。  すいませんね、こんな友達で。トホホ。
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