食べるだけの旅、それは終わりのない挑戦

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「乾杯!」  それぞれ、餃子にかぶりついた――と言いたいところだが、猫舌のN子は必死にフーフーしている。一向に食べる気配がない。  先に失礼しよう。  まずは、ビールをグイっと飲む。次に餃子を食べてみた。 「や、美味い!」  なんだこれは。餃子の専門店ってこんなに美味しいのか。 「でしょ、美味しいんだよ」  N子はまだ口にしていない。 「失敗しても有り余る美味さだね」  うむ、とうなずく熊野。 「この焦げも、逆にアクセントになっていいかも」  それはどうだろうか。  隣を見れば、N子はまだ食べてない。 「大丈夫だよ、私がひと口で行けたんだもの。そんな小籠包みたいな熱さじゃないって。――半分に割ったら?」 「そうする」  N子は小皿の上で、餃子を半分に割った。湯気をしっかり逃がしたところで、ようやくひと口。 「うまっ」 「ですよねえ」 「やっぱ餃子、うまいわ」  ビールが進む。餃子が進む。ビールがなくなってしまった。席を立って、冷蔵庫に取りに行く。  不思議なもので、同じ数でも複数人が同時に食べると、あっという間になくなったような気分になる。1人だと、全て自分が食べねばと思ってしまうからだろうか、減るのが遅く感じられるのだけど。 「どうする? 次、焼く?」 「焼こう、焼こう」  N子は、取り立てて酒好きというわけではない。誰かと夕飯を食べれば、なにか軽いものを飲むくらいである。熊野みたいに、常習的に飲むような人ではない。  よって、この時点でも彼女は缶1本も飲んでいないくらい。かたや私はすでにビールを――2、3本くらい空けている。多分。  実際に焼くのはN子だし、隣で見守るくらいは、私だってできる。そこまでひどく酔ってはいない。だいぶ上機嫌ではあるが。
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