食べるだけの旅、それは終わりのない挑戦

23/32
前へ
/281ページ
次へ
「くまちゃん、ローストビーフ1枚食べる?」 とN子が言った。 「え、いいの?」 「結構お腹いっぱいになってきちゃって……でも、残してしまうのは忍びないから」  それは私も同意見である。  よしわかった、友よ。君の肉は私が引き受けよう。  食べ進めていくとわかる。一見、そんなに多くは見えないお肉だが、確実にご飯を減らしていく。  調整して、どうにかご飯とお肉をちょうど同じタイミングで食べ終えられそう、といったところか。  さて、問題は引き受けたローストビーフだ。これに合わせるほどのご飯は残っていない。  まあ、単体で食べても美味しいし――と考えて、ふとN子のお皿を見た。  先にごちそうさまをした彼女の丼には、ご飯が少し残っている。 「N子、そのご飯もう食べないの?」 「うん。くまちゃん食べる?」  すぐに『食べる?』というワードが出てくるあたり、我々がどんな関係を築いてきたのか伺える。 「食べてもいい? さっきのローストビーフと一緒に食べたい」 「いいよ、いいよ。よかった余らなくて」 「ありがとう」  やはり我々は同志であった。  食べられる者が食べればよい。適材適所だ。  と言いつつ、ふと思う。  誰かとご飯を食べて余った時、たいてい片を付けるのは私だ。  私が残して、誰かに食べてもらうことはまずない。大皿に残った料理も、私の胃の中に押し込んでから、退店する。  まあ、残すよりはマシだと思うけれども。  お肉しかないなら、ご飯を足せばいい。つまみだけ残ってしまったら、酒を追加すればいい。調味料を入れすぎてしまったら、食材を増やせばいい。  マイナスではない、常にプラスの発想。  え? だから体重が増えるんだって?  仰る通り。我々もそれを承知で、食べている。  健康診断で受けるダメージと引き換えに、今日もどこかで食いしん坊が世のフードロスを防いでいるのだ。
/281ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加