食べるだけの旅、それは終わりのない挑戦

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 のんびりするのはいいが、そろそろ帰り時間を考えなければならない。  日立駅17時02分発の特急を予約する。  17時に出るなんて、まだ早いと思うのだが。  ところがどっこい、東京駅に着くのが18時43分。  そこから自宅まで約1時間だとして。20時には帰れるか。  あれえ?  どうも、感覚がおかしくなっている。  こんなはずではと思ったのは、荷物の量もまた同じ。  まず、前日にいちごの里で買ったお土産がかさばる。  そうだ、この存在を忘れていた。  プラス、昨日飲みきれなかった酒類。N子宅にあった姫梅酒が2本。N子のお母さんが持たせてくれた、稲庭うどんの乾麺500g。それから本日の晩ごはん、ローストビーフ丼。  結構、あるぞ。  N子が、奥から大きな紙袋を引っ張り出してくれた。  おお、ぴったりではないか。  よかったよかったと、持ち上げてみる。重い。  これを持って、東京駅と新宿駅、二大ダンジョンを歩かなければならないかと思うと、少し気が重くなる。  荷物は最低限でいいよとは言われたが、やはりキャリーバッグを持ってくるべきだった。  まあ、こうなってしまったのは仕方ない。  というより、自分で買ったのだ。自分で持って帰るしかあるまい。  駅までは、N子が車で送ってくれる。 「あらら」  駅の東側に来て、N子が声をあげた。 「駐車場、空いてないや」  仕方ないので、その場で転回して歩道の傍につけた。 「ごめん、見送りできないけど、ここでいい?」 「いいよ、全然。送ってくれてありがとう」 「気を付けてね」 「N子もね」 「また連絡する」 「はいよ、バイバイ」 「バイバイ」  別れも、慣れたらこんなものである。  でもそれがまた、長年の親友という風合いを感じさせて、私は結構嬉しかった――  というのは、ここだけの話だ。  ホームの、指定席の車両位置まで歩く。入線してきた特急電車に乗る。  出発して間もないこともあって、客は少ない。周りにはほとんど人がいなかった。  車内はとても静かである。  そうくれば、やることはただ1つ。  広くて座り心地のよいシート。東京駅に着いたら、あの混雑と戦わなければならないのだ。  どう考えても、これしかない。  私はイヤホンを耳にはめて、音楽を聴きつつ――。  寝た。
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