食べるだけの旅、それは終わりのない挑戦

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 後日。  来らっせで買った、冷凍餃子が届いた。  宇都宮みんみんと、香蘭である。  どちらも30個入り。さすがに、1人でいっぺんには食べられない。  というか、いっぺんに食べてはもったいない。少しずつ食べよう。  賞味期限の短い、宇都宮みんみんから焼いてみる。  ニトリの、取っ手が取れるフライパンを出す。油を敷き、餃子を半分並べる。  N子宅での反省を生かし、水はしっかり入れよう。  最後にふたをして――ふた……ふた? 「うち、ふたなかった!」  顔に、ピシャンと衝撃が走った。  少し前に、ニトリで取っ手の取れるシリーズを、一式買い換えた。  フライパンと、鍋を大小2つ。それから、取っ手。 「ふた、どうしようかな」  以前はセットで一緒に買ったのだが、使う機会はほとんどなかったのだ。 「なくてもいいんじゃない?」 と言ったのは、たまたま同行していた母。 「ラップとか何でも代わりになるよ。大体、ふたなんかあったら、邪魔じゃん。使っても、洗うの面倒くさいし」  主婦もウン十年やっていると、ミニマム思考になるらしい。  実家に帰るたびに、台所に並ぶ鍋や食器が小さく、少なくなっている気がするのだ。 「まあ、そうか。じゃあいいか」  とは言え、主婦歴ウン十年はだてではない。私は母の意見を採用し、ふたの購入を見送ったのだった。  引き出しを開ける。  中から、アルミホイルを出した。  そうだ。君は今、この瞬間のために存在していたのだな。
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