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16歳、夏ときどき不満
「ったく、何が不満なの」
制服に着替え食卓テーブルにつくと信じられないものを目にした。
「ちゃんとあんたの好きな小粒の納豆でしょ」
「いや、そうじゃなくて」
「大粒の方がいいってこと? いやねぇもう、好みどころか態度まで大きくなって」
「だからそうじゃなくて! 不満っていうかおかしいでしょ?」
「なにが」
「え、わからないの?」
「わからないから聞いてるんでしょ?」
ずずっとクレーンゲームのアームがつかんでいるようにお茶碗を持ちすすっていた。
「それだよそれ!」
「どれよどれ!」
「だぁから!!」
朝だというのにもう空気は生ぬるく、水で冷やしたはずの喉はすでに熱を帯び始めていた。
「なんで茶碗にみそ汁なの?」
とうとう白と黒の見分けがつかなくなったかと言わんばかりに指で示して訴えた。しかし母は言い訳するわけでもなくただ淡々と「だからどうしたの」と言った。
「いやいやいや、茶碗に味噌汁だよ? おかしくない? 普通お椀に味噌汁でしょ?」
つい昨日までそうだったのに何故か急に変わった。日々の奇行もそうだが、これはもう母がイカれたとしか思えなかった。
「なに、割れたの? それとも逃げ出しでもした?」
「……あんた、上手いこというね」
「なにが?」
「お椀を追わん」
「…………ん?」
「いや、逃げ出したから追いかけ、」
「うるさいよ!!」
途中で遮った。つまらないギャグの解説は寒いだけだしなんにも上手くはない。
「なによ、せっかく冷ましてあげようと、」
「ほんとに黙って!!」
わざとだった。
「朝からうるさいなぁ」
乱れた前髪で片目が隠れているのにも関わらず、その逆の目を擦りながら姉がとぼとぼ歩いてきた。
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