完全という名の不完全な僕たち

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──君に出会って運命を感じたんだ。 僕の右目の下にあるほくろと、君の左目の下にあるほくろ。それから僕の右腕にある傷跡のような染みが、君の左腕にも同じようにあったから。それはまるで、僕たちが魂の片割れで生まれてきたという何よりの証のようだった。 「ただいま」 そう僕が微笑むと、君も微笑む。そうやって君は僕にいつだって寄り添ってくれた。僕が落ち込んでいる時は僕と一緒に落ち込んでくれて、僕が怒りに震えた時は君も一緒に怒ってくれた。 君は言葉が話せないけれど、僕と同じように感情を表してくれるから、僕は君からの愛をいつだって感じられるんだ。 「そういえば君が欲しいと思っていたものを買ってきたんだ。」 僕はそう言いながら帰りに買ってきた白い箱を目の前に置く。言葉が交わせないながらもこうして僕は君の欲しいものが分かる。ほら、やっぱり僕たちは魂の片割れなんだ。出会うべくして出会い、愛し合うために生まれてきたんだよ。  箱の中から取り出したのはクリームいっぱいのショートケーキだ。それを前にした君の瞳がキラキラと輝いているのを目にして、嗚呼やっぱりこれが欲しかったんだね、と思った。キッチンから小さなフォークを持ってきて、ケーキの横に並べる。君と向き合って「いただきます」そう告げてからケーキをフォークで割って、それを口に運ぶ。ふわふわのスポンジケーキ。滑らかで舌触りの良いクリームが舌の上で溶けていく。なんて美味しいんだろう。これは止まらないや。次から次へとフォークは伸びる。 ふと、食べることに夢中になりすぎていたのに気付いてフォークを止める。君を見つめたら、君は呆けた顔で鼻の上にクリームを乗せていた。君も美味しくてケーキに夢中になったんだね。そんな様子があまりに愛おしくて笑い声をあげたら、君も同じように大口を開けて笑った。 ある日職場の飲み会があってほろ酔っていた僕は、やけに話しかけてくる女の人と話が盛り上がって路上で笑い声を上げていた。三軒目にもいこうよ、なんて腕を回されるものだから、満更でもないような気持ちで頷きかけた時、ふと、暗闇の奥ガラスの向こうから僕を見つめる君と目があった。赤らんだ顔は、怒りを滲ませているようで僕は狼狽える。ちがう、ちがう。そういうつもりじゃ無かったんだ。慌てて女の人の手を振り解いて君を見つめる。不安そうな瞳だった。その時に思ったんだ。僕はもう、君を一人にしないと。 その次の日、上司から呼び出された僕は精神科を勧められ長期間の休職を余儀なくされた。 初めはなんで、意味わからない。と思っていたけれど、会社から出る時に同僚たちの噂話が耳に入った。アイツはガラスに向かって話しかける気持ち悪い奴だ、と。 最近毎日君は悲しい顔をしている。元気付けてあげたいが、そんな余裕は僕にもなかった。会社中に立てられたであろう噂話。言い付けられた休職という名の事実上の解雇。 どうしてだろう、僕はただ(ぼく)の事が好きなだけなのに。愛しているだけなのに。それだけなのに、まるで犯罪者のようだ。 ──(ぼく)を愛することは、罪なのだろうか。 つぅ、と涙が頬を伝う。罪は償わなければならない。 キッチンからあまり使っていない包丁を持ってきた。刃先を首先に向ける。がたがたと震える姿を見て、君も怖いんだね、と思う。けれども不思議と心はどこか穏やかでもあった。これでようやく君と一つになれるような気がしたから。 あとは手に力を込めるだけだ──
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