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「ディアーヌ・ハクスリー伯爵令嬢。私は、ランスロット・グラディスです。貴女は……もしかしたら知らないかもしれませんが。この城で騎士として、働いていて。決して、怪しい者では、ありません」
そのことは、国民のほとんどが、とても良く知っているけれど。考え難いことだけれど、もしかしたらこの彼は自分が、とても目立っている存在であることを知らないのかもしれない。
ついさっきまで付き合っていたクレメントへの遠慮もあって、そして特にそうする必要性もなかったから、ランスロット・グラディスと私は今まで話した事が一度もなかった。
互いに、遠目で姿を見るだけだった。
淑女に対する礼儀は、完璧。きちんと挨拶と自己紹介をされて、それでも無視を貫く訳には行かない。
私はゆっくりと頷き、紳士的に長椅子に距離を空けて座る彼を見た。
「初めまして。ディアーヌ・ハクスリーです。グラディス様」
彼の方を向くと歪んだ視界が揺れて、頬を伝った温かなものに手に触れると指先が濡れて驚く。
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