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そんなつもりなんか、なかったのに。こんなところで、みっともなく泣くつもりなんてなかったのに。
「不作法を。申し訳、ありません」
一度流れ出した涙は堰を切ったように次から次へと落ちてくる。止めようとしても止まらなくて、ぐっと下唇を噛み締めた。こんなの、嫌だ。まるで故意に泣いて、ランスロットの同情を引きたいみたいになってしまった。
両方の手の平で強引に頬の涙を拭うと目の前に、真っ白で清潔そうなハンカチが現れた。
「……どうぞ、使って。今日卸した新品のものなので、貴女が良ければ、そのまま持っていって欲しい」
この涙は彼のせいではないけれど、泣いてしまうきっかけを作ったのは他でもないこの人だ。私はどうにかこの場所で失恋の衝撃をやり過ごせるようになるまで落ち着けば、邸に着くまでは我慢はするつもりだった。
どこかやぶれかぶれになってぱりっと糊の利いたハンカチで、次々と流れ落ちてくる涙を拭った。
「……ありがとう」
そのまま一頻り泣いて、みっともなく鼻を啜りながら言った。
ランスロットは何も言わずに、傍に居た。
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