6.水の求愛

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「ありがとう、水刃。でも、うちの家族にばれたら水刃もただじゃすまないよ。話を聞いてくれただけで嬉しい」 「火未。本当に気にしないで。ぼくはもっと火未に頼りにしてほしいんだよ。そう、流風や風吹より、他の誰よりも、ぼくをね」 「水刃……」 「ねえ、火未。ぼくはずっと火未を見てきたんだ。この学園に入った時からずっと」  まるで好きだと言われてるみたいだ。あまりに優しい言葉をかけられると都合よく勘違いしてしまいそうになる。水刃は誰に告白されてもずっと断ってきて、好きな相手がいるのだと聞いていた。 「え、だって水刃は、好きな人がいるんでしょ?」 「うん、いるよ」  突然、胸に大きな塊が飛び込んできた。息が詰まって、声が出ない。ああ、何でこんなことを聞いたんだ。心のどこかで自分に都合のいい言葉を求めていたのが分かる。逆にとどめをくらうなんて、おれは馬鹿だ。 「火未、火未。どうしたの?」  涙がぼろぼろとこぼれて止まらない。水刃はおれの頬を自分の手でそっと包んだ。おれは水刃の手に自分の手を重ねて、声を振り絞った。 「水刃の好きな人って誰……」  ちらりと乙女座の委員長が浮かんだ。相性のいい土の星座なのかな。男も女も関係ないのだろうか。自分に望みはないと思っても、縋りたい気持ちが湧いてくる。水刃がおれの顔を覗き込んだ。 「気にしてくれるの? 火未」  こくんと頷いた。毒を喰らわば皿まで。どうせ堪えきれずに血を流すなら、全部知った後がいい。 「ああ、どうせ傷つくのなら最後までって顔だね。火の星座らしい……。とても綺麗だ」  水刃の端正な顔が近づいて、優しく唇が塞がれた。  目を見開くと同時に、口の中に熱い舌が入ってくる。水刃の唾液が流し込まれた途端、ぞくりと背に何かが走った。 「みず……?」  水刃の瞳が、燃え立つように赤く染まった。  何かが危険だと告げている。体中が火照(ほて)り、自分の頬の星紋が熱を持って浮かび上がる。 「好きだよ、火未。初めて見た時から」  水刃がうっとりした顔で言った。長く綺麗な指がおれの頬の星紋に触れて、びりびりと体中に痺れが走った。
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