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「ひみー! 火未? どうしたのさ」
「死んでんだけど、顔」
そっくりな顔が二つ並んでこちらを覗き込む。
「るか……。ふぶき」
どちらがどちらかわからなくなりそうなくらいよく似た顔だけれど、彼らはすぐに見分けがつく。金の瞳の流風と黒の瞳の風吹。それぞれに太陽の瞳と夜の瞳を持つ双子座たち。
風の一族には双子が多い。元々の祖先に双子がいるんだから遺伝的にも双子の因子が強いんだろう。
友人たちの声をぼうっと聞きながら、おれは疲れきって机の上にぐったりと体を預けていた。路上で力を放出しきった頃、見知らぬ相手からの攻撃は止んで、いつのまにか結界が解かれていた。
大丈夫ですか? と通行人に声をかけられて、ようやく我に返ったのだ。
余程屋敷に戻ろうかと思ったが、勘のいい使用人や家族にばれたら益々余計な詮索をされるだろう。それこそ今後、家から一歩も出してもらえないかもしれない。
「火の一族の元気が無いと何だか不安になるんだけど」
「ほんと、ほんと。大抵何かに燃えてるのにね。ちょっと待って、甘いもの食べる?」
「あ、俺も持ってるよ」
机の上に飴やらチョコやらが積まれていく。二人から心地よい風が流れて来て、少しずつ心が浮上する。火と風は相性がいい。二人の力がゆっくりとおれに向かえば、おれの中の力も勝手に増していくのだ。
「火未」
艶のある声がして、傍らに美しい男が立った。
「いつもの元気がないね。大丈夫?」
「……みずは。いや、色々あって疲れてるだけだよ」
いくら力尽きた状態でも、目の前の神々しさに目が吸い寄せられる。さらさらと流れる髪に端正な面立ち。切れ長な瞳は長い睫毛に縁どられて、通った鼻筋も柔らかそうな唇も触れてみたくなる。小心者のおれにはとても自分から彼に触れるなんて出来ないけれど、彼は気軽におれに触れる。背は高く顔は小さく足が長いなんて、人の憧れを全部持ってきたような男だ。何よりも、水の属性を持つ者は何もかも包み込むような深い愛情を湛えている。
うちの兄たちも華やかだと思うけれど、水の輝きはまた違う。水刃の長くて綺麗な指がおれの髪を撫でた。
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