セックスフレンドと本妻

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 昨夜、俺は彼女を抱いた。 俺には妻がいて、彼女には夫がいる。 俺の氏名は、小西正(こにしただし)、二十七歳。職業は百円ショップの店長をしている。俺はオープン当初からいる。彼女は、大場美津子(おおばみつこ)、三十歳。俺と同じ職場の部下でパート社員。入社二年目。  俺と美津子が仲良くなったのは、美津子の勤務が遅番の時。俺は九時から二十一時までの勤務が毎日で、週に二日休みがある。美津子も同じく週に二日休みがある。シフトを決めるのは俺。前々から美津子はいい女だなと思っていたので、俺と勤務が二人になれるようにあえて遅番を多くした。最初、美津子から、 「遅番が多すぎます。夜九時に退勤したんじゃ、子どもの面倒がみれません」  そう言われた。なので俺は事務所で、 「俺は君と遅番でお客がいないとき、はなしをしたかったんだ」  すると、 「はなし? また、店長ならいやらしいこと考えて」  俺はいやらしい笑みを浮かべた。 「いいじゃないか、仲良くしようぜ」  そう言うと俺は思わず欲情した。 「あたし、これでも結婚して子どももいるんですよ」  フフンと俺は鼻をならした。 「そんなことは承知の上だ」  美津子は笑みを浮かべながら、 「もう、仕方のない小西店長ですね!」  ハハハッと俺はわらった。 「君だって俺のような若い男、好きだろ?」  彼女は黙った。 「若いたって、たった三つじゃないですか」 「もう店おわるけど、食事でも一緒にどうだ?」 「でも、帰って家のことしないと……」  美津子は困っている様子。なので、 「今日、一日くらいいいじゃないか」 「わかりました。旦那に電話してきます」  そう言って彼女はバックルームに行って電話をした。  戻って来た美津子は、 「旦那はわかったって言ってました。ちょっと不服のように感じましたけど」 「そうか、まあ明日は休みだからいいじゃないか」  彼女は困惑しているようだ。でも、俺は、 「何食いたい? 奢るぞ」 「いえいえ、奢るなんてそんな……。自分の分は自分で出しますよ」  俺はそれを聞いて腹がたった。 「俺に恥をかかせる気か?」  店のドアに鍵をかりながらそう言った。 「いえ、そういうつもりではないです。ただ、悪いなと思って……」  ハハハッ! と俺は笑った。 「誰に言っているかわかってるのか? 俺は店長だぞ! 飯の一食や二食奢ったくらいで痛くも痒くもない。余裕だぞ!」  美津子は黙っている。 「とにかく遠慮するな」 「はい」 「俺の車で行こう、帰りはまた店まで送るから」 「わかりました」  居酒屋は酒が飲みたくなるから、夕食だけにした。行きつけのレストランに行った。俺はハンバーグを注文しようと考えていた。彼女は何を食べるだろうか。メニュー表を見せて決めてもらおう。  十分ほど走り、到着した。店はこげ茶色の壁で覆われていて一階建て。駐車場は十台くらい停めれそう。この店の名前は「ヴェルジュ」という。なぜ、この店名にしたかというと、まずは店長はフランス語が好きということ。二つ目の理由は、未熟ブドウを搾ったジュースがこの店で無料で提供している。そのジュースは店長がフランス人の友だちからもらったもので、自慢の一品と言っていた。俺はこのヴェルジュの店長の後輩にあたる。  奥の方の二人用の席に座り、白いシャツを着て、黒いスラックスを履いた若い男性ウェイターがやって来て、 「いらっしゃいませ。こちら、メニュー表でございます。お決まりになりましたら、そちらの赤いボタンを押して下さい。ご注文を伺いに来ますので」  と言った。 「わかったよ、店長いる?」  俺が笑みを浮かべながら言うと、 「はい、います。お呼び致しますか?」 「うん、呼んでくれ」 「かしこまりました。ちなみに、ヴェルジュというぶどうジュースはお召し上がりになりますか? 無料で提供していますので」  そのウェイターは得意気に言った。 「ああ、もらうよ。美津子も飲むだろ?」  彼女は頷いた。 「わかりました。ごゆっくりどうぞ」   そう言ってウェイターは厨房の方に戻った。ウェイターと入れ替わりに店長がやって来た。 「いらしゃいませ、正さん」  仕事モードの話し方だ。 「店長、久しぶりだねえ。元気にしてた?」  彼は笑顔を見せて、 「元気だよ。最近、来ないからどうしてるかなって思ってたよ」  一応、心配はしてくれているんだ。もともと優しい人だから。 「なんだ、彼女連れ?」  俺は、ふふん、と笑った。 「彼女ではないよ。俺の部下だよ。まだ、店長は続いているから」  ドヤ顔で言った。でも、この先輩も店長だ。きっと、百円ショップと違って俺より給料はいいだろう。訊いたことはないけれど。 「そうか、頑張ってるな! わたしも厨房に戻るよ。ゆっくりしていってくれ」 「ありがとう!」  店長にそう言われて嬉しかった。 「さて、何食べるかな。君から見て良いよ」  そう言って俺は彼女にメニュー表を渡した。美津子はそれを見るなり、 「うわー、美味しそうなお肉ばかり。何にしようかな」 「好きなの選んで良いよ。値段のことは気にしなくていいから」  彼女はこういうおしゃれな店に来たことがないのかな、真剣になって見ている。美津子はこちらを見ながら、 「牛焼肉定食がいい」  笑みを浮かべている。確かに旨そう。俺は、 「サーロインステーキにするかな」  メニュー表を見ずに言った。このメニューは俺の定番だ。 「小西店長、メニュー表見ないんですか?」  俺は自慢気に、 「この店のメニューは制覇したんだ。その中で一番旨いのが、サーロインステーキだ」  美津子は感心したように俺を見ている。 「せ、制覇、ですか。凄い!」  俺はフフフン、と鼻で笑った。余裕だ、これくらい。 「ところで、気になっていることがあるんだけど、俺って自信過剰かな?」  美津子の顔を凝視しながら話した。 「何故です?」  彼女は不思議そうな顔をして俺を見ている。綺麗な顔立ち。 「前に雇っていた店員に、店長、自信過剰ですよね、て言われたからさ」  彼女は何とも言えないような表情をしている。 「気にしてるんですね。意外」  俺は美津子の話を聞いて、 「え? 意外か?」  そう言った。 「意外ですね、そういうの気にしない人かと思った」  俺は黙っていた。 「俺もナイーブな一面くらいあるさ」  今度は美津子が黙った。二人の間に沈黙が訪れた。俺は彼女を見詰めている。目が合った美津子は戸惑った様子でパチパチと瞬きをした。俺は心に秘めていることがある。それは、今夜ラブホテルで美津子を抱くこと。きっと彼女も嫌がらないだろう。時給も少し上げてやる。そこで、ワインを用意してもらって酔わせよう。酒の力を借りて抱いてやる。  食事を終えて、俺は満腹になった。きっと、彼女も満足しているだろう。俺は、 「ちょっと、ホテルで休憩しないか?」  と言うと、 「ホテル? ビジネスホテル?」  俺は笑ってしまった。 「そんなわけないだろ。雰囲気の良いホテルさ」  美津子は黙った。何故だろう? 嫌なのか? 訊いてみた。 「嫌じゃないけど、そんなことしたらあたし達……」  フンッ! と鼻で笑い、 「何も恐れることはないぞ。黙っていればわからない。もちろん、君の夫や俺の妻にはな」  彼女はコクンと頷いた。やはり、俺の読み通りだ。乗ってきた。  十五分くらい車で走り、山の方にあるラブホテルに着いた。車を停めてある場所のシャッターを閉めてから、横にあるドアを開け、美津子を先に階段をのぼらせその後に俺がのぼった。彼女はミニスカートを履いていたので、下から覗いていた。美津子は見られていることに気付いていない。俺はムラムラしてきた。部屋の中に入って、奥の方にダブルベッドが置かれてある。さらに奥は風呂場がある。 「美津子、一緒に風呂入るぞ!」 「うん、ジャグジーかな?」 「どうだろう。入ればわかるよ」  そう言うと、 「確かに」  言いながら笑っていた。お互い興奮しているからか、脱衣所で急いで服と下着を脱いでお互い裸で俺は彼女を抱きしめた。俺はシャンプー類が置かれている所にあるスポンジにボディーソープを三回くらいプッシュして、美津子の体をくまなく洗ってやった。くすぐったいのか、たまに笑っていた。逆に、俺の体も洗ってくれた。同じスポンジで。自分で洗うより何倍も気持ち良かった。  シャワーで流してバスタオルでお互いの体を拭き、ベッドに向かった。俺の体と美津子の体をお互い思う存分堪能した。俺は興奮の余り、避妊具も付けずに挿入した。妊娠する可能性も考えていないわけではなかったが、それよりも気持ちの高ぶりの方が優先してしまった。  時刻は零時過ぎ。そろそろ帰るか。俺も美津子も妻や夫には会社の連中と飲んできたと答えることにした。口裏を合わせておかないといけない。  彼女にワインを飲ませようと考えていたが、その必要はなかった。  俺は支払いを済ませ、部屋を出た。美津子は階段を降りる時、あまりの気持ち良さのせいか、足がガクガクいっている。 「大丈夫か? 階段から落ちるなよ」  俺はニヤニヤしていた。 「大丈夫です! 笑わないで下さい!」  恥ずかしかったのかもしれない、彼女は強い口調でそう言った。 「そんなに怒るなよ。俺たち、体の相性抜群にいいな」  美津子は黙っていた。  外に出るとシャッターは開いていた。俺と彼女は車に乗り、発車した。 「ふうー。気持ち良かった。また、来ような」  俺は満足している。 「頻繁には来れないわよ」  何でだかわからないが、ツンケンしている、なので、 「何だ、機嫌悪いのか?」  なおも黙っていたがやがて、 「あたし、大変なことした気がする。旦那がいるのに」  俺はその話を聞いて頭にきた。 「何をいまさら言っているんだ! お互い気持ちよくなれるんだからそれでいいだろ!」  美津子は首を左右に振った。 「気持ちいい、悪いの問題じゃなく、夫がいるからっていう意味」 「俺だって妻はいるぞ、でも、妻より君を選んだんだから君だって同じことだろ」  うつむき加減だった美津子は顔を上げて、 「まあ、バレなきゃいいけどね!」   笑顔でそう言った。 「だろ? そういうことだよ! だから、これからも抱いてやるよ!」  美津子はニヤニヤしながら、 「セフレ?」  と訊いてきたので、 「まあ、そんなとこ」  俺も釣られて思わずニヤけてしまった。 「休みもなるべく合わせるから」  そう言うと、 「無理のない範囲にして下さい。毎回、店長と休みが同じになったら他の人に怪しまれても困るから。それに、お互いの家庭のこともあるし」  俺は前を真っ直ぐ見て運転しながら、 「確かにそうだな」  と言った。 「でも、いずれ君と暮らしたいな」  俺がそう言うと美津子は、 「気持ちは嬉しいけど……あたしは家庭を壊す気はないよ」 「今すぐじゃなくていい! 子どもが成人したらでもいいから!」  俺は必死になってそう言うと、 「そんな先のことはわからないわ」  俺は何も言えなかった。確かにそうだから。  車中ではそのようなことを話しながら店に着いた。 「今日は楽しかったです。ありがとうございました」  美津子は頭を下げながら俺にお礼を言った。 「いやいや、そんな改まらなくていいよ。日付が変わったから今日だけど仕事だろ? 俺も仕事だ。頑張るぞ!」 「はい!」  それから彼女は自分の車に向かって歩いて行った。俺はそれを見ていた。後ろ姿も良い! ああ……俺のものにしたい……! とりあえず、今夜、美津子を抱けたから良しとしよう。  俺が自宅に帰った時刻は空腹だったから、コンビニで唐揚げ弁当を買ったので午前一時前だった。風呂はラブホテルで入ったから家では入らなくていい。美津子はもう寝ただろうか。LINEを送ってみた。 <いま、起きてるか?>  だが、既読にならない。寝てしまったかな。まあ、明日も会えるから俺も寝るか、と思ったその時、スマホが鳴った。LINEだ、きっと美津子からだろう。開いてみると、 <起きてますよ。今日はありがとうございました。どうかしましたか?>  やはり、彼女からだった。  ちなみに俺の妻は既に寝ている。それでも、俺はまだ遊びたい。家事は全て奥さんに任せてある。俺は仕事をして、生活費を稼ぐ。そういうふうに役割分担をしている。 <さっき会ったのに、また会いたいと思ってさ、笑>  数分後、 <さっき会ったばかりじゃないですか、笑。もしかして、あたしに惚れてるんですか?>  彼女の言うことは図星だった。 <実はそうなのさ! でも、俺にも家庭があるから、残念ながら付き合えない。付き合いたいけどな。セフレ止まりだわ>  少し間が空いたのでどうしたのだろうと思って様子を窺っていると、 <あたしにだって家庭はあります。ずいぶん、上から目線ですね。>  俺はムッとしたが、確かにそうだと思った。しかも、美津子のほうが年上だし。仕事中は俺の天下だが、それ以外は俺が一番店員の中で若いからわきまえなければいけない。何だか(しゃく)にさわる。仕方ないが。だから早々に寝ようと思い、<おやすみ>と送った。返信はなかった。返事くらいよこせよな! と思った。  翌日、大場美津子は欠勤した。理由は体調不良。今日は月曜日でそんなに忙しくならないと思うからまあいいけれど。昨夜、遊び過ぎたかな。そんなことは他の従業員の前では言えないけれど。 佐々木篤人(ささきあつと)という三十歳くらいになる従業員がいる。佐々木さんは今度、社長と話し合って主任に高格させようかと考えている。本人にはまだ言ってないけれど。彼と美津子は同い年。佐々木さんはまだ独身。現在、佐々木さんは正社員になって2年目。レジ上げも出来るようになり、発注も出来る。担当は、雑貨。因みに俺の発注の担当は雑貨と食品。  この店の店員は俺を含めて六人いる。休みはシフト制。この店の社長は数年前からの知り合いで、この店を開く時、資金援助をしてもらった。有難い。この借りは仕事で返す。売上も上場なので別の地域にもう一店舗作ろうかと考えている。この話は今からしてみようかと思っている。もちろん、電話じゃなく直接会って話す。まずは、アポをとらないと。俺は今、店にいて、高田(たかた)社長に電話をした。四回、呼び出し音が鳴って繋がった。 「もしもし、小西です」 『おう、お疲れさん。どうした?』 「お話があるんで今からそちらに行っていいですか?」 『今から会議があるんだ。急ぎか?』 「いえ、そういうわけではないですが」 『会議が終わったら電話するよ』  高田社長は隣町にいて、車で約一時間かかる。  当時、この店がオープン一日目の時の売り上げは百万円を超えた。この額には高田社長や俺は目を疑った。何度、計算しても百万は超えていた。この店のオープンの準備を頑張った甲斐があった。俺は思わず嬉し涙を流した。  売上が百万円を超えたのはあの日だけ。今はだいたい一日十万円くらい。それくらいあれば十分。一カ月で三百万円を超える計算になる。  今日の遅番は、佐々木篤人さん。例の話をするために事務所に呼んだ。 「佐々木さん、ちょっと事務所に来てもらえる?」 「はい、わかりました」  そう言って俺の後を付いて来た。  事務所に来て、俺は奥の方に座り佐々木さんは俺の向かい側に来た。 「まあ、立ってないで座ってよ」  彼は不思議そうな顔をしながら椅子に座った。俺は話し出した。 「佐々木さんが入社当時から一日も休まず今日(こんにち)まで頑張っていることは俺も知っているし、高田社長も知っている。そこでだ。佐々木さんを主任という地位に就いてもらおうと思っているんだ。役職手当も少しだがつけるし。どうかな?」 「ありがとうございます! これからもより一層頑張るのでよろしくお願いします」 「ただ、主任になるからには今までみたいに早番・遅番というのはなくて、俺のように開店から閉店までの勤務になるがそこは大丈夫?」 「大丈夫です!」  彼は即座に答えた。 「よし! じゃあ、高田社長に報告しておくから。期待しているぞ!」 「はい! 頑張ります」  だがだ、翌日になり佐々木さんは出勤してこなかった。何故だろう? 何かあったのだろうか。せっかく、昇進したというのに。時刻は十時近くになったがまだ来ない。一体、どういうことだ。これ以上は待てないので、彼のスマホに電話をかけた。十回以上、呼び出し音を鳴らしたが繋がらない。心配になったので、高田社長のスマホに電話をかけた。数回で繋がった。 「もしもし、おはようございます」 『おはよう、どうした?』 「佐々木さんの件でお話があったのですが、今、大丈夫ですか?」 『ああ、大丈夫だ。そういえば、会議終わって君に電話するって言ったけどしなかったな、忘れてた』  俺はそんなことは気にしていなかった。 「実はですね、佐々木さんに主任の話を昨夜、事務所でしたんですよ。それで、彼も頑張りますと、意欲を見せていたんですが今朝になって出勤して来ないんですよ。どうしたらいいですかね?」 『うーん、何かあったのかな。今日、何人出勤しているんだ?』 「今日は僕を含めて三人です。佐々木さんも本来は出勤なのでシフト上では四人ですが」  少しの間が空いてから高田社長は話し出した。 『佐々木君の家に行ってみたらどうだ? 様子を見に。それと客の入りはどうなんだ?』 「今は落ち着いています」 『じゃあ、店は少しの間、他のやつに任せて行って来い』 「わかりました、行ってきます」  俺は早速、パソコンを立ち上げ、佐々木篤人を探した。 「えーと、ささき、あつと。あった!」  俺は画面を見て、佐々木さんの住所をメモり、従業員に事情を説明してから地図を持ち、店を出た。そして、店の軽自動車に乗り地図を開いた。以前行ったことのある場所だ。記憶したので、発車した。  約十分後、佐々木さんのアパートの前に着いた。部屋の番号は二〇二号室。路上駐車をし、車から降りた。そして、部屋のチャイムを鳴らした。少し待ったが、中から誰も出て来ない。一体、どうなっているんだ? 彼に何があった? とりあえず、高田社長に連絡しておこう。その時だ、俺のスマホが鳴った。画面を見ると、店からだ。出てみた。 「もしもし」 『小西店長! 大場美津子です。今、佐々木さんから連絡がありました』  それを聞いて驚いた。 「本当か? 俺は今、佐々木さんの住んでるアパートの前にいるけど、チャイムを鳴らしても出て来ないんだ。どこにいるか訊いたか?」 『はい。市立病院にいるらしいです。事故って腕を骨折したと言ってました』  俺は更に驚いた。 「マジか! わかった。今から店に戻るわ。ありがとう」  意外なことなので俺は少し混乱した。  まずは何をしなければいけないのか? 頭の中を整理してみた。思い当たるのは、高田社長に報告することだ。よし、電話をしよう。してみたら、数回で繋がった。 『もしもし』  落ち着いた口調だ、俺とは違う。さすが、社長。肝がすわっている。でも、部下のことが心配ではないのだろうか。 「小西です。佐々木さんの件ですが、今、大場さんから電話が来て事故って腕を骨折したらしいので市立病院にいるそうです」 『何! そうなのか!』  さすがに驚いたのだろう、口調が荒い。 「はい。市立病院に行って話をしてきますか?」  少しの沈黙があり、 『そうだな、事情を訊いて来てくれ。それからまた、連絡してくれ』 「わかりました」  さっき、に店に戻ると言ってしまったので、市立病院に行くと言い直さないといけないから、次は店に電話をし、そう伝えた。  数十分、車を走らせ市立病院に着いた。まず、受付に行き、 「佐々木篤人さんはこの病院にかかっていますか?」  訊くと、そこの若い女性は、 「失礼ですが、佐々木様は当院にかかっていますが、どういった要件でしょう?」  そう言われてイラッとした。 「俺の部下だよ! 仕事に来ないから探してたんだ」 「そうですか。今、佐々木様は治療中ですので、終わるのをお待ちください」 「わかったよ。骨折したって聞いたけと外科か?」  「整形外科ですね、二階になります」  そう言われて俺は二階に向かった。二階のナースステーションに行って病室の番号を訊いた。すると、 「ご家族の方ですか?」  訊かれた。 「いや、部下だ」 「あっ、会社の上司の方ですね。佐々木さんは今、治療中ですのでもう少しお待ちください」  看護師はそう言った。 「入院してないのか?」  俺がそう訊くと、 「ええ、してません」  そう答えた。 「でも、仕事はできんだろ?」 「そうですね、すぐには難しいと思います」  全く! 佐々木は何をやっているんだ。主任にしてやったのに。  俺はデイルームで三十分くらい待ったあと、佐々木さんは処置室から出て来た。俺は彼の方を見ていたので俺の視線に気付いたのだろう、こちらを見た。そして、お辞儀をしながらこちらにやって来た。そして、俺の向かいの椅子に座り、話し始めた。 「小西主任、すみません、こんなことになってしまって」 「事故で怪我したのか?」  佐々木さんは苦い表情を浮かべながら、 「そうなんですよ、通勤途中に正面からぶつけられてしまって」  言った。 「仕事も出来ない状態だろうし」 「そうですねえ……すみません」  俺は少し考え、 「でも、相手が悪いんだろう?」  そう言うと、 「だと思うんですけど、あとは保険会社の判断だと思います」 「そうか、高田社長には報告するから詳しいことがわかり次第連絡くれ。ちなみに完治するのにどれくらいかかるんだ?」  彼は言いづらそうに、 「……三カ月と医者は言っていました」  俺は彼から目をそらした。 「骨折だからそれくらいはかかるよな」  佐々木さんは黙っている。何故だろう? 察しているのか。もしかしたら主任になれないかもしれないということを。それは、高田社長に言ってみないとわからないが。 「自宅療養か?」 「多分そうだと思いますが、一応、医者に訊いてみます」 「そうか、わかった。大事にしてくれ」 「ありがとうございます」 「じゃあ、俺は職場に戻るわ」 「お疲れ様です」  佐々木さんは、階段のところまで来てくれ見送ってくれた。腕の包帯が痛々しかった。  俺は車に戻り、高田社長に電話をした。だが、繋がらなかった。忙しいのだろうか。  とりあえず俺は店に戻った。  店に着いて店内に入ると美津子がいた。 「お疲れ様です、小西店長」 「お疲れ」  美津子は俺に近づいてきた。そして、小声で、 「今夜、会いませんか?」  と言った。彼女から誘ってくるのは珍しい。 「ああ、いいよ。妻に出掛けると言ってOKが出れば」 「わかりました」  俺は美津子に、 「事務所にいるから」  と伝えた。 「はい、わかりました」  内心、彼女から誘われて嬉しい。もし、会うことが出来たら思いっきり抱いてやる。  事務所で俺は高田社長に佐々木さんの件で電話をした。今度はすぐに繋がった。 「もしもし、お疲れ様です。さっきは繋がらなかったですね」  一瞬、黙った。 『さっき? ああ、トイレに行ってた』 「そうですか。佐々木さんのことなんですが、腕を骨折して全治三か月だそうです」  ん-、と高田社長が唸っている声が聞こえる。 『そうなのか、じゃあ、主任就任の話は一旦白紙にしよう』 「やっぱりそうなりますよね」 『致し方ないな。もしかしたら、辞める可能性もあるからな』 「そうですね。わかりました。伝えておきます」 『じゃあ、頼んだぞ』  とりあえず、売り場の様子を見に行くことにした。美津子は品出ししてるかな。  お客さんはまばらだ。俺は周りの様子を見た。これから皆に品出しをしてもらおう。まずは雑貨から。それから食品の順で。俺はバックルームから商品を袋に入ったまま、同じ品物の前に置いていった。  俺は美津子のところに向かった。 「お疲れ!」  そう声をかけると、 「あっ、店長、お疲れ様です」  笑顔でこちらを向き、俺に挨拶をした。彼女の笑顔は可愛くて、癒される。 「頑張ってるな、偉いぞ」 「ありがとうございます」 「ところで、そろそろ発注してみないか?」  彼女は首を傾げて、 「うーん、あたしにできるかな」  と言った。 「出来るよ、俺でさえできてるんだから。君は頭がいいだろ」 「そんなことないですよ。少なくとも、店長ほどじゃないですよ」 「やりたくないか?」  俺は真顔で言った。 「そんなことはないですよ」 「じゃあ、やろう」  彼女は笑っている。 「店長、強引ですね」  そう言われて俺も笑い出した。 「そうか? 普通だと思うが」  俺はとぼけた。 「いやいや、強引ですよ。あたし、やるとは言ってないですよ」  そう言われ俺は思った。 「大場さんは仕事を選ぶのか?」  キツイ言い方だったかな。 「いや、そういうわけじゃ……」  俺は言ってしまってから自分の言い方のキツさに後悔した。だが、ペコペコするのは嫌なので、黙っていた。  俺は美津子に、キッチン用品から発注を始めてもらうことにした。発注するファイルと、それに載っているバーコードを読み取る機械を持って、キッチン用品コーナーへと移動した。美津子は、 「店長、あたしにできるかなぁ……不安です」  と言うので俯き加減の彼女を見て、 「大丈夫だ! 俺がついてるから」  励ました。  今日、美津子は遅番。今の時刻は夜七時半過ぎ。八時半になったらレジ上げしよう。お客さんはまばらだし。  俺は美津子と二人なので彼女を事務所に呼び出した。そして美津子が事務所に入って来るなり、唇を奪った。 「ちょっ……小西、店長」  俺はディープキスをした。 「ん……仕事、中ですよ」  美津子の言っていることは無視をした。  唇を離して俺は言った。 「発注していてムラムラしていたんだ! 美津子が横にいたから」  彼女を俺と反対側を向かせ、後ろから胸を揉んだ。 「ちょっと、こんなところで……」  美津子は感じている様子だ。だが、俺の手を振りほどき、 「だーめ! 続きは帰ってからですよ」  その時、レジの方から声が聞こえた。 「すみませーん!」  という。お客さんだ! 会計に来たんだ。 「美津子! 急いで行ってくれ」  彼女は走ってレジに向かった。  胸の感触が俺の手に残っている。だが、今日は妻の誕生日だ。思い出した。遅く帰るわけにいかないだろう。美津子のことも愛してはいるが、自分の家庭を壊す気はない。  時刻は夜九時になり、閉店の準備も終わった。美津子には、 「今日は会えないわ。妻の誕生日なんだ」  彼女は少し黙った後、 「そう。それは、おめでたいね。あたしのことはいいから奥さんを祝ってあげて」  美津子の話を聞いて俺は感心した。できた女だなと。  俺は美津子を先に退勤させ、俺は事務所で妻に電話をかけた。 「今から帰る。今日、誕生日だな。何か食べたいものはあるか?」 『居酒屋行って美味しいものたくさん食べたい! 特に焼き鳥』 「おっさんみたいだな」  俺はそう言いながら笑った。 『だって、好きなんだもん』  「わかった。支度して待っててくれ」  そう言って電話を切った。  妻は二十五歳。小西裕子(こにしゆうこ)という。子どもが出来ない体質のようだ。でも、それなら二人で楽しく生活していけばいいと話してある。俺の両親や、妻の両親は孫がいないのを残念がっているが、こればかりは仕方がない。俺が妻を守っていく責任がある。だから、そろそろ大場美津子との肉体関係もやめようかと考えている。この関係は長くは続かないと思っていたし。それに彼女にも家庭はあるし、それを壊そうとは思わない。別に交際していたわけじゃないし。セックスフレンドだ。今度、遅番の時、美津子にこの関係を解消しようと伝えることにした。帰宅途中の車の中でそのようなことを考えていた。  俺は自宅に着き自宅のアパートのチャイムを鳴らした。中から妻の高い声が聞こえた。 「はーい!」  と言うので、 「ただいま」  答えた。すると、ドアの鍵を開けてくれ、ドアを開いてくれた。裕子は笑顔で迎えてくれた。やはり、妻が一番良い。癒し系だし。疲れた時に裕子を抱くと、疲れが取れる。精神的な疲れだからだろう。妻は水色のワンピースを着ていた。出るところは出ていて、引き締まるところは引き締まっていてスタイルが良い。思わずムラムラしてくる。裕子は、 「シャワー浴びてから行くんでしょ?」  と言うので、 「ああ、汗かいたからな」  そう伝えた。  とりあえず家に入り、バッグと売り上げの入ったバッグをソファの上に置いた。早く帰って裕子の二十六歳の誕生日を祝ってやりたかったから、売り上げは明日、銀行に持って行くことにしたのだ。本来なら夜間金庫に入れてから帰るのだが。いつものように、裕子に下着と出掛ける時着る服とズボンを用意してもらった。俺は早速、浴室に入り顔面からシャワーを浴びた。体を洗い、洗髪をして上がった。服装は赤いTシャツにダメージジーンズだ。そこら辺のお兄さんが着ている格好。帰りは代行タクシーを使う予定。飲酒をするから。俺も裕子もお酒は大好物だ。煙草も吸うし。 「今日は誕生日だから、俺の小遣いで裕子にご馳走するよ」  俺はドヤ顔で言った。 「ほんと? 嬉しい!」  車中でそのようなことを話した。 「帰ってきたら抱いてやるよ!」  俺がそう言うと、 「うん」  と彼女はニヤけていた。いやらしいことを想像しているのだろう。  居酒屋に着き、焼き鳥や刺身、唐揚げなどを食べビールを五~六杯ずつ飲んだだろう。結構酔った。  それから、タクシー代行を呼んだ。 「美味しかったね!」  裕子は満足気にそう言った。 「それなら良かった!」  自宅に着き、俺も裕子ももう一度シャワーを浴びてリビングのソファに二人で並んで座った。俺は、裕子の肩に手を回した。彼女は俺の顔を見詰めた。俺もそうした。そして、俺は裕子に口づけした。そのまま俺たちはお互いを堪能し合った。俺が裕子の他にもセックスしていた相手がいたということは知らないだろう。だから何も言ってこないのだ。これからは、裕子を大事にしていこうと思う。                              (終)
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