グッバイ花火

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「夏美も夏祭り行くよね?」  放課後、掃除をサボっていた環奈と美咲が私の箒を取り上げた。周りを見渡すと、掃除係の人数が異常に少なく、皆サボっているようだった。 「夏祭り?」 「来週の花火大会にうちらとクラスの男子で行こうって話になってて」 「うん。行きたい」 「じゃ、決まりね」 「佐々木と松田と相川!夏美も行けるってー」  美咲が廊下にいた男子を大声で呼んだ。その声に気づき、男子たちが元気そうに教室に入ってくる。 「お、いいね」 「女子は浴衣着てくでしょ?」  男子たちが期待の目で私たちを見てくる。 「もちろん!ね、二人とも」 「当たり前じゃん」 「う、うん」  私は一人たじろぎながら頷く。多分、押し入れの奥にお姉ちゃんが着なくなった浴衣が眠っていたはず。だけど……浴衣は動きにくいから苦手だんだよな。私は楽な恰好の方が好きだけど、二人が着ていくなら、空気を読んで浴衣を着ていくべきだよね…… 「なあ」  男子の一人が何かを思いついたように笑いながら指さした。真面目に机を運んでいる月島くんに視線が集まる。月島くんはいつも一人で行動するタイプで、私はまだ一回も話したことがなかった。 「月島も祭りに誘ってみようぜ」 「まじかよ。あいつはやめとけって」 「なんで?月島って何かあるの?」  環奈と美咲が興味津々な顔で男子を見つめる。 「女装が趣味なんだよ。月島と中学が一緒だったやつが言ってたんだ。去年の夏祭りに女装して来てたらしいぜ」 「まじ?嘘でしょ?」 「本当だって。写真もある」 「見たい」  皆がスマホの画面を覗き、月島くんのことをクスクス笑っていた。 ……ああ。凄く嫌な感じだ。 心の中に害虫が入ってきて、必死に追い出したいのに出て行かない、そんな気分の悪さ。一体何が面白いのか分からないし、何でこんなに胸がチクチク痛むのか分からない。とにかく、彼を笑う声に自分も囲まれている状況が嫌でしかたがなかった。  重そうな机を淡々と運ぶ月島くんがチラッとこちらを見る。海底のように冷たくて、どこか諦めたような目で。  私は……笑ってない。そう主張したかったけど、口が錆びついた扉のように開かなかった。     ただ下を向いて、長く伸ばした髪で顔を隠す。痛んだ髪が頬にチクチク刺さって痛い。    ああ、そっか。 私は一人で呟いた。 こういう時に顔を隠すために、髪を伸ばしてたんだ。 誰かが「好き」を馬鹿にされている時に、私には関係ありませんって主張するために。 ……私って、情けないな。
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