さとうのゆうれい

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 えー……幽霊ってぇと、夏の夜に出るのが昔から定番ではありますな。  何で夏の夜なのかって知り合いの幽霊に聞いてみたんすけどね。そしたら『薄着だから冬は寒くて出られない』なんて言ってましてな。毛皮のコートとか着ればいいんでしょうが、『それだとあんまし怖そうじゃないからダメ』だとか。あっちにも色々と都合ってぇモンがあるようで……。 「おう! ご隠居、いるかい?」 「何だい、八っつあんじゃないか、どうしたんだい?」 「いやぁ、ちょっと聞きてぇことがあって」 「珍しいな、何だい?」 「実ぁね、うちの長屋に最近、幽霊のヤツが出るようになっちまって」 「おいおい、そりゃ穏やかじゃあないね。何処に出るんだい?」 「いやそれが、裏の井戸ンところなんで。ここンところ毎晩のように丑三つ時になるってぇと、青~い光がチラチラして『ドロドロドロ……』って出てきやがるんですよ」 「それは困ったもんだねぇ。それで?」 「それでね、カカアのヤツがあんまりにも怖がるから、あっしが文句を言ってやろうと思って」 「……幽霊に文句つけようってヤツぁは初めて見たね。それでどうした?」 「昨日の晩に幽霊の野郎が……いや、女だったから『野郎』じゃあねぇな。まぁとにかく出て来やがったもんだから『ヤイ、この野郎! 邪魔だからとっと成仏しやがれ!』って怒鳴りつけてやったんで」 「いきなり喧嘩を売ったのかい? 取り憑かれたらどうすんだよ」 「え? 取り憑かれたら、逆に見世物にでもしてやろうと。いい小遣い稼ぎにならぁ」 「根性の座ってる男だね、どうも。それとも単に馬鹿なのか」 「そしたら幽霊のヤツが言うには『自分も成仏したくて困ってんだけれど、何か『ありがたいもの』があれば』って言いやがるんで」 「ははぁ、ご祈祷だな。そこのお寺からご住職を呼んで、ありがた~いお経のひとつも上げてもらうとか」 「冗談じゃあねぇや。あんな遊郭好きの生臭坊主なんざ呼んだところで銭ばかり掛かって、ちっともありがたくねぇ。とは言ってもあっしだってお経なんて知らねえし」 「そりゃ困ったねぇ。それで?」 「仕方ねぇからもっと簡単に成仏する方法は無ぇのかって聞いたら『ありがたいお清めの塩とかあれば』って言いやがって」 「なるほど、塩は邪気を祓うというしね」 「んだけど、間の悪いことにカカアに聞いたら『塩を切らしてる』って言いやがって。そんで『代わりに砂糖なら少しあります』ってぇから、とりあえず砂糖を撒いてみたんでさぁ」 「砂糖ぉ? いやいや、そんなものでどうなるってものでも」 「いや、それがね。砂糖を撒いた途端に幽霊のヤツがすぅ……といなくなりやがって」 「へぇ、これは意外な」 「そんで翌朝でさぁ。あっしがその井戸の辺りをよくよく見渡したんですが、撒いたはずの砂糖が何処にも落ちて無ぇんで」 「きれいに無くなったってことかい」 「ええ、そうなんで。それで『これはいったいどういう事なのか』ってぇのを、ご隠居にお聞きしようと」 「いや、また難しいことを聞くね、八っつあんも。……だがそいつぁアレだな。物が砂糖だというだけにだ」 「へぇ、砂糖なだけに?」 「さぞかし『あり(蟻)がたかった』んだろう」  ……おあとがよろしいようでm(_ _)m 完
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