第三話 ご主人様は猿のトラウマが

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第三話 ご主人様は猿のトラウマが

 なるほど。完全なる別居生活なのですね。  小さなお城の二階のテラスで先程一口しか頂けなかったあの香ばしいお紅茶を味わいながら、優雅なひとときを過ごしておりました。 「ねぇカトリーヌって何歳なの?」 「は、はい。十五歳でございます」  若いな。いえ若すぎるでしょう。 「その歳でこのお紅茶の入れ方、お上手ですね。とっても美味しいわ。ありがとう」  彼女はコクッと頷き、また顔を赤らめました。  可愛いな。生い立ちなど知りたいけれど、もう少し打ち解けてからにしましょうか。 「ところでアレなんだけど……」  別邸からほど近い場所に木造の建物が見えます。塞がれてない天井から何やら湯気が立ち込めているのです。もしかして、ですが。 「温泉でございます」 「お、温泉?」 「は、はい。奥様専用の露天風呂です」 「なんと!」  温泉。しかも露天風呂。そして奥様専用? って何気に初めて『奥様』と呼ばれダブルで嬉しい気分でございます。  ですが。 「何と贅沢な……」 「お入りになられますか?」  ええ。是非とも入りたいです。長旅で少々疲れましたし侍女長にもストレス感じましたし。 「で、ご主人様は秘境の湯とも言えるあの露天風呂へお越しにならないのかしら?」 「あ、はい。お越しになられません」 「どうして?」 「本邸にも温泉の大浴場や露天風呂、サウナなどございます」  なるほど。いつかそこも制覇したいものです。 「ただ、それが理由ではございません。あの露天風呂は……その、びっくりしないで頂きたいのですが」 「何でしょう?」 「お、お猿さんが時々お邪魔するのです」  え、さる? 「あ、でも大丈夫です。飼い慣らしております。人に危害は加えません。ただ……ご主人様はお猿さんが苦手なのです。だから別邸には近寄りません」  おっとまた出ましたね。苦手その三。今度はお猿さんですか。いやあのここは辺境の地ですよ。野生動物だって沢山生息してるでしょう。 「子供の頃に引っ掻かれたのが原因と侍女長から伺っております」  はいトラウマです。どうやらわたくしのご主人様はメンタルが非常に弱く思えてしまいます。だから『安息玉』が必要なんでしょうね。  薬剤師としてはありがたいお客様ですが、妻としては複雑でございます。根本的に何とかしてあげたいのですが……  まぁそれはおいおい考えるとして。 「ねぇ温泉に入りたいわ。別邸で働く皆んなで一緒に入りましょう」 「そ、そんな恐れ多いことでございます」 「え? 皆んなお風呂には入るでしょう」 「でも奥様専用の露天風呂に浸かったことは」 「皆様にご挨拶したいの。わたくしだけ裸ってのも恥ずかしいし。……ね!」  するとパァーッとカトリーヌの表情が明るくなったのです。 「かしこまりました。呼んできます」  うんうん。ついでにお猿さんも紹介してねー。
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