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第二話 ご主人様は女性アレルギー
やっぱりやんわりとお断りされましたわ。まぁあわよくばだから致し方ございません。
若い女性が苦手か。その対象に二十歳の妻であるわたくしも含まれているのです。
「ディアナ様、では別邸をご案内致します」
うん、奥様とは呼ばないのですね。と言いたいところですが……え、別邸? 別邸とは?
「こちらが侍女長のセリアでございます」
仁王立ちしてる恰幅の良い叔母さま風の女性が先程から睨んでおいでです。怒ってらっしゃるのでしょうか、少々怖いですよ。
「あ、宜しくお願いします」
「……こちらへ」
ツンッと前を行く侍女長の後ろをトコトコついて歩くわたくしはまるで見習いの使用人ですね。
と、少々情けない気も致しましたが、歩いてるうちにそんな気持ちも飛んでいきました。
ここはまるでお城だわ!
広々とした空間もさることながら壁際に飾ってある価値の高そうな絵画や骨董品など売れば一体幾らになるのか、我が貧乏子爵家なら一生暮らしていけますわー。などと考えてしまいます。
「ご立派なお屋敷ですね」
溜息混じりについ言葉を発してしまいました。するとビタッと侍女長が立ち止まります。
「ディアナ様」
「は、はい」
「香水がきつうございます」
「え、そうですか?」
いえ香水など高価なものは持ち合わせておりませんが。強いて言うなら自家製のアロマオイルでございます。
「本邸では慎んでください」
「ですが。これは植物や果実から採取した精油で薬効成分が……」
「ご主人様は女性の匂い、即ち香水の匂いも苦手なのです。どうかお気を遣って頂きたくっ!」
こわっ。
「かしこまりました」
わたくしのご主人様は相当な女性アレルギーの様です。なのに何故わたくしを妻に? 生薬がお望みなら薬剤師としてお雇いになれば良いものを。
まぁ考えても仕方ありません。その様な疑念はお会いできれば直接お尋ねしてみましょう。お会いできれば、ですが。
「彼方に見えますのが別邸でございます」
いつの間にかお屋敷の裏手へ出ておりました。そこから眺める景色に思わず……絶叫したのです。
「うわーーっ、綺麗ですう!」
透き通った美しい湖や森林の輝き、流石は辺境の地でございます。自然豊かで壮大なる光景は王都では決して味わえません。
そして小さくて可愛いらしいお城。あれが別邸ですね。
半信半疑ながらも嫁いで良かった。いえ嫁ぐと言う表現が適してるかは別として。けれどもそんな幸せな気分に満たされます。
「私はここまでです。別邸では専用の侍女をお付け致しますので。カトリーヌ!」
するとちょこんと侍女が現れ、一礼しました。まだあどけない少女です。
「大人しい娘ですが仕事は保証致します。では」
クルッと侍女長は反転し颯爽と本邸へ戻られました。わたくしも緊張が解けた気が致します。
「宜しくね。カトリーヌ」
彼女は顔を赤らめ小さく頷きました。
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