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第七話 ご主人様は強面?美青年?
「こちらが書庫でございます」
わたくしは三人の侍女に連れられ本邸の一階にある書庫へ参りました。
「ひ、広いね」
そこは窮屈そうな書籍の倉庫ではなく、もはや施設とも呼べるくらいの構えでした。流石は大邸宅です。
余談ですが、道中数名の侍女を見かけました。いずれも年頃の女性です。ただ、ご主人様と遭遇する時間を避けて従事してるとか。
本邸では十五歳以上の侍女は気を遣ってる様です。なのでカトリーヌも女性として認識されてると言う話ですね。ちょっと怖い気が致します。
さて、どこかしら。
書庫へ入ると正面に肖像画が飾られておりました。あれがご主人様でしょうか。高鳴る気持ちを抑えつつ近づいてみると……
「ええっ?」
なにこの厳つい男性? しかもご年配ですよ?
豪猪の様なお髭を蓄えギロッと睨む貫禄満点な御方。失礼ですが大変な強面で恐ろしく感じます。
シ、ショックでございます。ああ、残念無念……。
「奥様、その御方は先代の領主様です」
「え、そうなの?」
「はい。ご主人様のはこちらにございます」
はぁー。ホッと致しましたわ。(失礼ですね)
「こっち、こっち。です!」
わたくしの手をアンナとウラリーが引っ張ってくれます。その場所は書庫の事務室の前です。そして壁上に……
「あっ」
美しい金髪と碧眼。それに豪猪ではなく美髯。さらに端正に整ってる容貌。その肖像画はまさかの眉目秀麗だったのです。
お若い。美青年。これがご主人様……
恥ずかしながらわたくし、年齢も知らされてないまま嫁いでおります。
ですが。
ですが、この肖像画はいつ描かれたのでしょうか。それに少々盛ってらっしゃるのではと勘繰ってしまいます。
「ねぇねぇカトリーヌ。ちょっと良い感じに描かれてるんじゃない? だって肖像画なんだもの」
さりげなく探りを入れてみました。
「いえ、とてもそっくりだと思います」
「ほんとに? 随分お若い様だけど?」
「ご主人様は二十五歳でございますよ」
え、わたくしの五つ上だったとは。しかもとんでもなく素敵な御方ではないですか!
思わず足が震えてしまいました。
「そ、そうなんだー」
いーえ、動揺してはいけません。いくら外見が良くても中身は冷酷仮面のメンヘラ男子なのです。わたくしは負けませんとも。
などとよく分からない決意をしたその時です。
「ディアナ様、お探し物は見つかりましたか?」
聞いたことのある声。恐る恐る振り返るとあの侍女長が仁王立ちしております。その姿を見てアンナとウラリーがわたくしの背後へ隠れてしまいました。
「ふん」
徐に侍女長はわたくしに近づき「クンクン」と匂いを嗅いできます。
「アロマの香り……しますか?」
「まぁいいでしょう。で、何もお持ちになられてない様ですが?」
「いえあの、これから薬草の書物をお借りしようかなと」
「それは彼方にございます。カトリーヌ、何してるんだい? さっさとご案内しなさい!」
「も、申し訳ございません。どうぞこちらです」
慌てて彼女に連れられ本棚へ向かいます。その間、侍女長はわたくしから目を離しません。怖いです。きっとご主人様の肖像画を見に来たことがバレバレなのでしょう。
それにしてもこのタイミング。わたくしは監視されてるのでしょうか?
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