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「や、やめろっ!」
「三ヶ月もずーっと、そのことに悩んでたのかあ、久斗。逆に尊敬するよ」
「な、なんでっ……なんでっ!」
「当たり前だろ。おれがお前を選んだのは、オメガだったから。ヤりたいときはヤらせてくれるし、ヒートセックスって他より気持ちいいし、何よりおれより目立たないし」
はっ。ただのヤリ目。そういうことか。
脳が冷めていくと同時に、ヒート中の体はさらに火照った。
こんなやつのために流す涙なんてない。なのに勝手にあふれた涙が、止まらない。
「オレのこと、あ、愛して、くれてたんじゃ、」
「オメガなんて、孕ませて産ませる都合のいい性じゃん? アルファ女とかだと、いちいちマウントとか取ってくるし。あいつらって収入とか、ルックスとか、バース以外のスペックを気にするし? ベータだと子供がアルファになるかもわかんないし? オメガなんて滅多に出会えないんだから、そこのところは早いうちに、印、つけとかなきゃって思って。なのにさ」
また無理やりうつ伏せにされる。耳元で囁かれる。
「なんでΩがαより目立ってんの?」
その言葉で、オレは悟った。
オレが絵で賞をとって、絵で生きていく。それが自分より目立って気にくわない。
それだけの理由で、礼央はオレのヒート抑制剤を別のものにすり替えた。
それだけの理由で、オレの人生を台無しにした。
「だからさ、とっととオレと番になって、とっととヤろうよ。それがオメガの仕事だろ」
この男と番になったら、オレはそののまま、道端のボロ雑巾みたいに捨てられるんだ。
番になったオメガは、パートナーのアルファにしか発情しなくなる。他のアルファはフェロモンに反応しなくなり、ヒートを抑えられるのも番のアルファだけになる。
捨てられたらオレは、一生発情期に苦しむ。死ぬまで。
そうすればオレが絵どころではなくなるって知ってるんだ。番にして捨てて才能を潰す。そういう魂胆なんだ。
「い……いやだっ!」
オレは必死になって礼央に抵抗した。腕を振りほどいて、火照っておぼつかない体で、だけどうなじだけは両手で押さえて、離すまいとした。
「こいつっ……おい! 久斗ッ! ひーさぁーとッ!」
殴られて、蹴られて、乱暴にナカをかき乱されて、だけどオレは、うなじだけは守りきった。
「はぁっ、てめえっ、いい加減にしろよッ!」
「ううっ……うう!」
「くそがッ!」
オレは本能に抗った。
その日を最後に、礼央に捨てられた。
──オレが毎晩見る悪夢は、そういう過去だ。
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